魔剣使い 43
あまりに弛緩したので、ゼノバ長官が去り際に洩らした台詞を、彼は聞き逃してしまった。
「しかし…それほどの魔剣使いが都に入ったというのに、私のもとには報告されていなかった。我々よりも悪党どもの方が耳が早いというのは、皮肉なことだな」
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警衛使庁はその一晩だけ、タナハを泊めてくれた。
翌朝。
宿代は前払いだからよかったが、有り金を失って途方にくれたタナハは、急ぎ鑑定所に向かった。
ジプタ・カーナがとっていった彼の荷物の中に剣の預かり証は入っていなかった。服の隠しにひそませておいたのが幸いしたのだ。
都中の賊に狙われるなど冗談ではない。とっとと蝕を売り払って、都から出てしまおう。そんな心算で、彼は店の扉を開いた。
…だが、タナハの不運はこの朝だけでは終わらなかった。
「買い取り不可ぁ?」
頭を下げる店員と鑑定士の言葉を、彼は信じられない思いで繰り返した。
「どういうわけで? だって昨日の話じゃ、モノが悪くても買い取りはしてくれるって」
「まことに申し訳ございません。いえ、大変良い品であることは間違いないのですが…」
店員たちは、ますます深く頭を下げた。語尾をにごされ、タナハは顔をしかめた。
「だったらどうして?」
「はい。まず、こちらが鑑定の結果になります」
鑑定士が頭を上げ、一枚の書類を彼に寄こした。
タナハはざっと年代鑑定と魔石の彩度試験、それから材質分析の結果に目を通した。ついこの間まで道具屋だった彼には見慣れたものだ。項目は他にもいろいろあるが、制作者不明の呪物に値をつけるのに、もっとも重要視される三つの要素だった。
製作年は推定千五百年前。人間のみの文明の記録が始まるはるか以前のことだ。人間はその他大勢の知能ある生命の一種にすぎず、世界が強い魔力に満ちていて、魔や神霊と物質存在の次元が重なっていた。神代とも表記される時代。
魔石の色は最高ランク。材質は鋼のように見えるが、違った。製作年代から推測されたとおりこの剣の存在自体がわずかに異なった次元に属しており、こうして目に見え、触れることもでき、影響を及ぼすこともできるが、人界にある金属とは全くの別物だ。『現象鉄』と称されていた。
またとない珍品ではあるが、驚くようなことではない。呪具の類、とりわけ魔剣などの武具に関しては、本当に力のあるものは魔属や神霊属の手からなることが多いのだ。