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魔剣使い
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔剣使い 42

「密輸品の呪物だの宝石だの、あとは賭場のあがりがあの女の主な標的です。一般の民家に押し入るようなことはめったにないので、被害者もその道の人間がほとんどでね。そんなわけで、なかなか訴えも上がって来ず、逮捕にもつながらないのですよ」
 ため息まじりの警衛使にたいして、彼は肩をすくめた。
 聴取も一通り終わり、もう解放されるかとタナハが思ったときだった。
 取り調べ室のドアが開いた。

 現れたのは背の高い男だった。体格のよいガニシャよりもなお大きい。中肉中背のタナハからすると、見上げるような大男だ。
 その顔を見るなり、ガニシャともう一人の警衛使はあわてて立ち上がり敬礼をした。
「ゼノバ長官どの。このような深夜まで」
 ガニシャの口にした言葉に、タナハは目を剥いた。
 警衛使庁の長官ゼノバといえば、行政議会の参議でもある。いわばこの国の最高権力者の一人だ。
「ガニシャ・ダヴィ一火長だったな。務めご苦労」
 歳は四十後半…いや、若く見えるが、あるいは五十を越えているかもしれない。
 白髪の混じり出した茶色の短い髪は品よく整えられており、奥まった目は濃い青色。やや面長の顔は彫りが深く端正に整っていて、鍛えられてがっしりとした体格ながら、手足の長い長身は文句なくすらりとして見える。
 同性から見てもいい男だ。その上、知的で穏やかな物腰ときた。さぞ女にもてることだろう。
「ジプタ・カーナが久々に現れたと聞いたが?」
「は…あの女がこの参考人を魔剣使いと誤認し、魔剣を奪うべく襲撃した現場に急行しましたが…」
 取り逃がした、と苦々しく続けようとしたガニシャを、ゼノバは軽く手で制した。
「君はよくやっている。犯行の数が確実に減っているのは君の手柄だろう。あとは、あの女の未知の脱出ルートを一刻も早く発見することだ」
 温情ある言葉に、ガニシャは深く頭を垂れた。ゼノバはそれから、やや口調を厳しくしてこう続けた。
「ジプタ・カーナの罪状は、もはや十度極刑に処しても足りない。骨身を惜しまず追跡するように」
「は!」
 ガニシャと部下は姿勢を正し、勢いよく敬礼した。
 ゼノバは鷹揚に頷いてみせると、今度はタナハに目を向けた。
「災難でしたね。都を訪れてくれた方に、大変な思いをさせてしまった」
 タナハはあわてふためいて立ち上がった。彼にしてみれば、今までの人生ではまったく縁のなかった偉い人物が相手だ。
「い、いえとんでもな…」
「都の治安を乱す凶悪犯だ。以後全力をもって捜査に当たります」
「はあ…」
 彼は緊張のあまり硬直しながら、何とかそれだけ返す。
 それから一言二言言葉を交わし、長官はようやく背を向けた。彼が取り調べ室にいたのはものの数分のことだったが、タナハは長時間息を止めたあとのように、ほっと安堵の息を吐いた。

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