魔剣使い 35
「そっ、その魔剣使い、どうする気なんだ…?」
間違いなく彼女の言うのは蝕のことだ。タナハは、尻でうごめくものからできるかぎり意識をそらして、考えをまとめようとした。
訊かれた女は、あっさりこう答えた。
「どうするって、あんたと同じだよ。手を縛って尻にそいつを突っ込んでやれば、魔剣使いから魔剣をいただくくらい簡単なことよ」
「……」
酒場で出会った絶世の美女に誘われる…などといううまい話に、裏がないわけがない。事が終わったあとぼったくられるくらいの覚悟はしていた。
だが、まさか田舎出のカモとしてでなく、正確に彼を狙って現れたとは思いもしなかった。
「魔剣なんて、どうするんだ」
「興味があるのかい?」
女は婉然と笑った。
「道具屋なら、魔剣の闇相場くらい知ってるだろ?」
逆に彼にそう訊ねてくる。金に換える気なのだ。
皆、考えることは同じということか。彼は自らをかえりみてそう思った。
「都中の、かっぱらいのガキから強盗団の頭まで、みんなその魔剣に興味があるのさ。本当にS級なら値は天井知らずだし、自分で使えば軍隊だって相手にできるからね」
彼は顔をしかめた。都中の盗人強盗どもが自分を狙っていると聞かされて、いい気分のするはずもない。
「噂によれば、威力が半端じゃないんだってさ。東で森一つ消し飛ばしたとか、北で山に穴を開けたとか。それが本当なら、防人部省から範囲不測型戦略兵器指定を受けてもおかしくない。
指定されちまったら、もう軍の管理下だからね。手が出せなくなる前にってみんな焦り出してんのさ。あたしも焦ったみたいだ」
彼女はまた肩をすくめた。
「あんたも明日から気をつけるんだね。気の毒な話だけど、人違いするのがあたしだけとは限らないよ」
「はあ…」
親切ごかしに忠告されて、彼は思わず神妙に返事をしてしまった。
が、自分の今の格好を思い出し、はっと我に返る。
「人違いってわかったんなら、縄解いてこいつも外してもらいたいんですけど…」
「いやよ。解いたら人を呼ぶだろ?」
何となく下手に出た彼に、彼女はしれっと拒絶した。
そうしながら、タナハの荷物をごそごそとさぐる。
「あんまりレアものはないようだけど…まあまあ高級品がそろってるかしらね」
「まさかそいつを持ってく気か!?」
「これが仕事だからねえ。働いた分はいただかなくちゃ」
荷物には財布と、秘宝探索のためにと店の在庫から選り抜いた呪物がつまっている。この数ヶ月の異種退治でかなり消耗していたが、それでもただでくれてやるにはもったいない高級品ばかりだ。
「人違いだって言ってんのに、金取るのかよ!」
「やあね、あんた充分楽しんだじゃないか。サービス料いただくのは当然よ」
本当に当然のように彼女はそう言い切った。
それから、なぜかじっと彼を見た。彼の下半身を直視する。