魔剣使い 28
飲み始めのしらふの目にも、女は魅力的だった。
化粧でつくりこんだ顔は、間近に見ると意外とあどけなくもある。南洋人らしい小振りの鼻と、ぽってりと厚い唇のせいだ。
だが目はあやしくきらめいていて、そこに幼さは微塵もない。それは頽廃した性愛を匂わせる、双つの昏い光だった。
グラスを傾けるしぐさ、返す手首のしなやかさ、知らぬ間に吸い寄せられる視線の先で、酒を嚥下するためにのけぞったのどが隆起する。タナハもまた、ごくりと唾を飲み込んだ。
「…名前は?」
もっと気の利いたことが言えないのか、とタナハは内心で自分自身に落胆した。だが、女はバカにした風も見せず、くすりと笑った。あでやかな笑みに、タナハの胸が高鳴る。
彼女はゆっくりと、ことさら思わせぶりな動作で、彼の耳元に唇を寄せた。
告げられた名が本名かどうかなど、気にするのも野暮な話だ。
意気投合する間もなく、二人はもつれあいながら、タナハの借りた部屋のベッドに倒れ込んでいた。
甘く官能を刺激する香りが、鼻腔をくすぐる。組み伏せて唇を合わせると、舌がねっとりとからみついてきた。痩せた肢体を抱きすくめると、若木のようにしなって彼の体にぴったりと沿う。
もともとさほど精力旺盛な方ではない上、補給と称して娼家に入り浸る日々が続いたため、せっかく蝕と離れられた夜に、好きこのんで女を買う気などさらさらなかった。本来ならば。
だが、補給はほとんど作業のようなものだ。前戯を必要とせず出すものは出すから作業としての効率は良いが、彼自身の欲求を完全に満たすものではない。
最初のときのような征服の満足感は、回を重ねるにつれて薄れていった。もっとも、以降は全て、ちゃんと対価を支払った上での玄人が相手だ。比べる対象にはならないかもしれない。
視覚や触覚、シチュエーションから引き起こされる衝動。懐かしいのはそれだ。男根が勃起するからそこにいる女を犯すのではなく、目の前の女に体が反応する。
逸る気持ちのまま長衣にかけたタナハの手を、女はそっと抑えた。彼は焦らされるのが我慢ならず、少々乱暴に押し伏せようとした。しかし、女の方がうわてだった。
くす、と甘い吐息を漏らして笑う。そのわずかな刹那に、女はタナハを巻き込んでベッドの上を転がった。
気付いたときには、二人の位置は逆転していた。下腹の上に跨ってまっすぐに身を起こし、女が彼を見下ろす。
とがった顎をわずかにつきだして、どこか蔑むような視線に観察され…彼はなぜかぞくりと、背筋に興奮の痺れが走るのを感じた。