モンスターハーレム 第2章 376
「わかった。カグラのほうを片づけてから、そっちの要件を片づけるってことでいいか」
「それでいい。ほれ、それじゃさっさと行って来い。
こっちの用件もそんな待っていられる状態じゃないんでな」
「チッ!何だよ、その扱い!用事が済んだら1発コマしてやるからな!?」
「ああ、楽しみにしているよ」
そんなわけでオレは半ば追っ払われるようにカグラの元に向かうこととなった。
想えばこの時、オレは気づくべきだった。
オレにあれだけ興味を示していた彼女が、なぜああもオレを邪険に扱ったのかを。
すべては貴重なモルモットであるオレから離れてもいいと思うだけの理由が、そこにはあったからだったのだ。
「だったら、私も同行させてもらおうかねぇ?」
向かうはずだったラグの後ろからしわがれた老婆の声が聞こえた。
足音どころか気配すら感じさせなかった事にラグの背筋がゾッと寒気が走る。
「あ、あんた誰だ?まさか、元三王の誰かか?」
ぎこちない動きでゆっくりと振り返るラグ。
「そのまさかだよ。私は元三王の一人、陸王 ボーデンだよ。お前さんがカグラの嬢ちゃん肝入りの人造魔王だね」
温和な笑みを浮かべるボーデンに訝しげな表情を浮かべるラグ。
(このばーさん、本当に三王なのか?)
感じられる魔力がヴァイアに比べてまるで残り火のようにあまりにも小さすぎるのだ。
「おやおや?疑っておるようだね」
「そ、そんな事は」
慌てて言い繕おうとするラグだが
「あるさね。感情が顔に出ておるよ」
笑いながらラグの言葉を遮るボーデン。
「強者となるとやたら面倒事が増えてしまってね……こうして気配を殺し、魔力を殺す事で厄介事を避けるもんさ。外見や感じる魔力だけで侮っていると痛い目を見るよ。覚えておくといいさね」
まるでやんちゃな坊主をボーデンが諭すように言う。
「あっ、ラグ様。まだ、居てまし……あの時のおばあちゃん!!」
「おやおや、あの時のお嬢ちゃんかい?見違えたね」
偶然来たミミはボーデンの姿を見ると目を輝かせた。
「あの時はありがとうございました。茸の栽培、すっごく勉強になって」
「構わんさ。老婆心ながらのただのお節介だからね」
気にしないとばかりに笑みを浮かべるボーデンにミミはあの時言えなかったお礼を言う。
「そういえば、変な話だが自己紹介すらしてなかったね。私はボーデン。元三王、陸王のボーデンだよ」
「ぼっ!?ぼっ、ぼぼぼっ、ぼぼぼぼぼーーーっ!?」
突然意味不明な声を上げるミミ。その顔からは血の気が失せ、自身の体毛(白兎)より白くなっていた。
ミミが1人、いっそおもしろいと思えるくらい明らかに異常な反応を見せる中。
三王の1人ボーデンを名乗るバーサンは何やらこらえきれない様子で笑っていた。ひどく楽しそうに。
「くふふふ……そう、うろたえるでないよ。それより、嬢ちゃんの名前、教えておくれ」
「わわわわわ、わたわたわたたたた」
あまりの緊張に呂律が回らず、またも意味不明な言葉を出してしまうミミ。
「やれやれ。深呼吸して……」
「それは土台無理な話でござるよ……ボーデン様」
そこにもう一人、事態を見かねたのかロカが顔を出す。
「お久しぶりです、ボーデン様」
「ロカかい。息災で何よりだよ。戦闘以外は無知だったお前さんが母親やっているなんて想像すらしてなかったよ。オスの魔物が減っていたからまだ行かず後家かと思って心配していたからね。ああ、気を悪くしたのなら謝るよ」