モンスターハーレム 第2章 375
禁区の最深部。
その部屋は数多の石像が立ち並ぶ。
その奥には一人の少女が泣きじゃくっていた。
石像は少女に対している。
それはまるで少女に忠誠を誓う兵士のようであったが、表情は憤怒とも驚愕とも取れるものである。
これらは少女が望まない有り余る力が齎した結果だった。
そこにザッザッザッとまた誰かが訪れる音が少女の耳に届く。
「こ、来ないで下さい!!」
静止を呼びかける声を上げる少女。
彼女は恐れていた。
また、この力で誰かを石にしてしまうと。
自分で制御できず、有機無機問わずに全てを石へと変えてしまう己の忌まわしい力を。
「エリュシュア、我じゃよ」
帰ってきた懐かしい聞いた事のある声にぴくりと反応する。
「その声……お婆様!!」
居ても立ってもいられずにバッと立ち上がって駆け寄り、抱きつく。
久しぶりに触れた肌の感触に少女の目から涙が溢れる。
よほど人の温もりに飢えていただろう。
彼女が抱きついたのは最初に謁見の間に来ていた三王の一人、ボーデンだった。
「よしよし、相変わらず泣き虫だね。エリーは」
抱きついて離れないエリュシュアの頭をボーデンは優しく撫でる。
内側は人と変わらない柔らかい肌だが、外側はごつごつとした岩肌だ。
ヴァイアが封身状態で押し込めきれずに体の一部が魔物化しているのと同様に、ボーデンもまた四肢の外側が強固な岩肌となって現れている。
「済まなかったね、エリー。長い間一緒に居て上げられなくて。暫く、見ないうちに大きくなったねぇ」
「いいんです。こうして会えるだけでもよかったです。お婆様」
久しぶりにボーデンに会えたのが嬉しかったのか、喉を鳴らす猫のように甘えるエリュシュア。
「それで今回はいつまで居れるのですか?」
「そうじゃのう……すぐにまた離れるやもしれんし、話が長引けばそれだけ長く居れるやもしれん。要は分からんって奴じゃよ」
苦笑しながらもエリュシュアを撫でる手を止めないボーデン。
ただ、今だけは孫と祖母として安らかで穏やかな時間を過ごすのだった。
「まったく・・・何をやってるんだ、おまえらは」
そして舞台は再びオレへと戻る。
ウネリ説得のためにやっかいなヤツを怒らせてしまったオレは。
現在顔につけられた無数のひっかき傷とデッカイ張り手の痕を、ミミたちベタぼれ魔物娘たちに治療してもらっているところであった。
本来なら殺されても文句を言えなかったところを、サルスベリのとりなしでここまでグレードダウンしてもらったのだ、文句は言えない。
ちなみにオレにこれらの傷を加えた犯人×2の行方は知らない。
2人ともぷりぷり怒ってどこかに行ってしまった。
謝罪をしなければとは思うが、あの様子ではしばらく時間を置いたほうがいいだろう。
で。問題がひと段落ついたオレに新たな問題が降りかかることになる。
すなわち、この愚者の迷宮にやってきた、これまたやっかい極まりない客の相手をせよとのカグラの召集令状とサルスベリの依頼が来たのである。
「おまえの依頼はともかく、あの女(カグラ)がオレを呼んでるだぁ?
ぜってえ何かあるだろ、それ」
「何だ、我らが魔王様はここの魔王代理様がお嫌いか?」
「あいにくオレには自分が魔王であるって自覚自体、そもそもねえんだよ。
それにあの女、他の連中と違ってなぁんかヤバい気がするんだよなぁ・・・」
その言葉に、からかい口調だったサルスベリに驚きの色が混じる。
「ほう?この私や反対派以上に危険な存在だと?」
「いや、おまえらもおまえらで十分怖いところはあるけどよ?
何っつーか・・・今まであった連中とはまるで違う危なさ?みたいなものを感じてだな・・・」
「ずいぶんと歯切れが悪いな。何でも思ったことを口にしているおまえでも説明できないのか?」
「あー・・・悪いな。おまえらの言葉で言う、『本能的なもの』ってヤツかもしれねえ」
これまでいろんな魔物娘たちと付き合ってきてわかったことだが。
コイツらは第6感・・・いわゆる直観力が鋭い。
いつ人間に滅ぼされるか、わからない立場。
また人間より野生の動物に近い存在である彼女らのそれは、決してバカにできるものではない。
言葉にできない、感じ取った何かが後の自分の生死を分けたり、将来を決めたりすることがあるのだから。
その骸から作られた、オレにそれが備わっていても何ら不思議はない。
特にオレの材料となったのは戦い敗れて死んでいった魔物の英雄たちの亡骸だ。
命の危険に関することには人一倍敏感なのかもしれない。
だがどれだけ第6感が優れていようと、それで解決できないことは結構多いものだったりもする。
サルスベリはオレの言葉に少し間を置くと。
ため息を1つついてこう言ってきた。