モンスターハーレム 第2章 374
「ゆ〜こ〜りよ〜?」
「ああ。アイツのウネリの好きな気持ちを利用して、小間使いにしてみたらいいんじゃないかと思ったんだ。
アイツがおまえにしつこくつきまとってたのは、おまえが好きだって気持ちをアピールしたかったからだろ?
だったらルンに自分がどんなタイプが好みなのか。
どんなことをしてくれれば喜ぶのかを教えてやれば、殺す手間が省けるどころか、もっと楽ができるんじゃないのか?」
「ん〜・・・」
一理あると思ったのか、ウネリが顎に人差し指の先を当てて何やら考え出す。
自分でもこの提案を勧めるのはどうかと思うが、2人の仲を取り持ち、恩を売っておくにはこれしかない。
頼むから面倒だからって理由で断るのだけはやめてくれよと、半ば祈るような気持ちで次の言葉を待っていると。
「んん〜・・・めんどくさそ〜」
案の定、そんなことを言ってきた。
だがオレはあきらめない。そんな理由でいい女同士、殺し合いを始められてたまるか。
「ふ〜ん?いいのか?365日24時間体制でいろいろ世話をしてくれる、便利な恋人。
起きている間はメシの支度や洗濯・掃除もろもろの家事をこなし。
時々ほめたり優しくかまってやるだけで、何でも言うこと聞いてくれるってのに」
「ん〜・・・」
「そりゃ1人でいたほうがいろいろ自由かもしれないけどよ。
その反面、自分でしなきゃならないことっていろいろあると思うんだわ。
それをやってくれるって考えたら、ルンほどイイ女はいないと思うけどね?」
「んん〜〜〜・・・」
「軽い苦労と引き換えに大きな楽を得るか。それともいつも通りの生活を取るか。
考えるまでもないんじゃねえの?」
「んんん〜〜〜っ」
同じ労苦で得られるものはまるで違う。
そう言ってやることで、ウネリの心の天秤は大きく揺れ動く。
そこでオレはさらに甘い言葉をかけてやる。
「何、今選択するだけで今後のすべてが決まっちまうわけじゃない。
嫌になったらそん時に殺っちまえばいいんだ。今はお試し期間と割り切っちまえばいいのよ」
「お試し期間・・・かぁ。それだったら、まぁ・・・いい、かなぁ・・・?」
よし、説得成功。あとはルンの頑張り次第だ。
せいぜいまた殺し合いしないよう、フォローとか入れてやらんとな!
1番面倒くさい思いをしているのは自分だと気づくことなく。
オレは1人、心の中で安堵のため息をつくのであった。
でもこの時オレはすっかり忘れていた。
自分が乗り越えたのは、ほんのさわりだけ。
まだ肝心のところはこれからだということに。
ガシッ・・・!
「ッ!?・・・ゲ」
突然背後から服の裾を引っ張られ、驚き振り向くと。
そこには幽鬼のごとく怒りのオーラを立ち上らせる、2人の女がいた。
キュリエルとルンである。
ウネリを説得するために強制退場させていた2人は、オレへの憎悪に身を焦がしながら、ついに復活を果たしたのである!
2人の怒りように、オレは焦った。
自分のしでかしたことの危険性を、この期に及んでようやく理解したのだ。
さすがにこの様子では説得はできそうにない。
再び私情満載の命がけバトルの始まりか?!
俺が命の危険を覚え始めたその時。
天はオレに蜘蛛の糸を垂らしてくれた。
なんと運よくサルスベリが仲間を引き連れ、部屋に入ってきたのである!
その頃、謁見の間では……
「そういえば、ボーデンはどうしたんだい?おまえさんの話では先に着いているはずじゃろ?」
茶菓子のクッキーを食みながら、未だ空席に視線を向け、カグラに問いかけるヴェーチェル。
「お二人が遅いので孫の様子を見に行くとおっしゃってそちらに向かいました」
「孫……白蛇の癒し手かい。一度会ったことはあったが、臆病な性格だからねぇ。素質は立派なのに勿体無い事だよ」
心底残念そうにヴェーチェルが溜息を漏らながら口に出す。
「もっとも、その他人を気遣うという点はボーデンに似ている点だろうね。いや、むしろボーデンの影響を受けたんだろうね。望まぬ力を持ち、他者を癒す事に長けたあの娘はね」
感慨深く口に出すのはヴァイア。
望まぬ力を持ち、他人を癒す事に直向になって努力する矛盾を抱えたその孫は今は禁区の奥深くで孤独に日々を過ごしていた。