モンスターハーレム 第2章 365
「・・・それに?」
「わかってるくせに知らないフリをするな、アホウ。
三王がこの迷宮にやってきたことだ。
1人来るだけでもめずらしいことだと言うのに3人全員がそろうなど前代未聞だ。
何かひと悶着あると考えるのが妥当だろう」
「・・・まあな。だけどあんまり気乗りしねーな。
弱った相手を無理やり手籠めにするなんて、オレの趣味じゃねーし」
そう。気位の高い、強い女を力ずくで屈服させるのはいい。
支配欲がこの上なく満たされる。
だが弱っている女を屈服させるのは、あんまりおもしろくない。
そのままでも十分イイ勝負ができるのに、その機会を不意にしているような、そんなもったいないことをしている気持ちになるのだ。
あるいはわざわざ余計な手間暇をかけて準備して、それが全部ムダになったときのような、そんな感じ。
しかしそんなオレの気持ちがサルスベリに通じるはずもない。
「いいからさっさとヤッてこいッ!
行く先々でムダにバトルばかり繰り広げて!たまにはそれ以外のデータも見せてみろっ!!」
とオレの尻を蹴っ飛ばして無理やり異名持ち3人の病室へと叩き込んだのだった。
サルスベリめ、覚エテロ。事が済んだら、2度とオレにそんな真似ができないようにしてくれる・・・!
再び芽生える復讐心に心を燃やしながら立ち上がると。
そこには安らかな寝息を立てるウネリとキュリエル。
そしてひとり憮然とした表情でベッドの上にあぐらをかいているルンが、いた。
男嫌いのはずの彼女は、オレが入ってきたにもかかわらず罵倒するも攻撃してくるでもなく。
ただ黙って自分の右手を見つめていた。
『狂風』の異名の由来となった、大事な翼があったその右腕には。
サルスベリがやったのであろう、真鍮(黄銅)の義手が取り付けられていた。
そこには魔水区で大空を飛びまわった恐ろしい怪鳥はいない。
翼を失い、地に落ちた弱り切った小鳥がいるだけだった。
「・・・何の用だ」
まるで別人のように右腕を見つめるルンに、声もかけられずに見つめていると。
いろんな感情を抑えた声で、ルンはそれだけ口にした。
それに対し、オレは何と声をかけたものか迷ったが・・・。
結局ありのまま、正直に言うことにした。
「ああと・・・あのドンパチでおまえらシャレにならないようなケガをしただろ?
それで見舞いにやってきた」
「ハッ。おまえを殺そうとしたあげく、惚れた女に右腕斬り捨てられたマヌケ野郎に、わざわざ見舞い?
オレもバカだが、おまえも相当な変わりもんだな、バカ」
自虐的な言葉を口にしながらオレを罵倒するルン。
しかしその言葉に覇気はなく、ただの空元気だということはオレでもわかった。
かなり落ち込んでいる様子のルンに何と声をかければいいのかと、足りない頭をフル回転させて考えていると。
ルンが再び口を開いた。
「サルスベリの話だとよ〜、ウネリに斬られたあの右手、もう使いもんにならねえんだってさ。
よくわかんねえけど、回収した時にはもう死んでてどーしよーもなかったって話。
一応、また空飛べるようにハーピー用の義手、作ってくれるとか言ってたけど・・・。
いつできるかわかんねーし・・・。できても前みたいにはもう飛べないんだって、さ・・・。
ハッ!まったくオレとしたことがつまんねー失敗しちまったぜ!
そりゃ今までホレた女にいろいろ殺されかけたことはあったけど、まさかこんな大失敗をやらかしちまうなんてよ!
このルン様、一生に一度の大不覚ってところだ!」
あはははと乾いた声で笑い出す『狂風』ルン。
その姿はあまりに痛々しく。迂闊に慰めればよけいに傷つけてしまいそうなほどであった。
やがて乾いた笑いは徐々に小さく、弱々しいものになり。
その声にありったけの無念を詰め込んだ嗚咽が混じり始める。
そして彼女の心が限界を迎えたその瞬間。
ルンは突然真鍮の義手で足元のベッドを殴りつけた。
嫌な音とともに簡易ベッドはわずかに形をゆがめ、義手からは軋むような耳障りな音を立てる。
「は、はは・・・。以前ならこんなベッド、簡単に壊せたってのに・・・。
今じゃ壊すどころか腕のほうが悲鳴を上げちまう。
痛みも、何も感じてやしないのに・・・は、はは、は・・・っく」
その嗚咽を聞いた瞬間、オレはとっさにルンを抱きしめていた。
別に何か考えがあったわけじゃない。
そうでもしないと目の前の女が壊れて、砕けてしまいそうな気がしたからだ。
突然の抱擁に驚いたのか、ルンは何も言わずそのまま1分がすぎる。
「何、やってんだよ、おまえ・・・。殺され、たいのかよ・・・?」