モンスターハーレム 第2章 339
そこまで言われてミミはようやく理解する。
確かに歴史に残るような武器の類がさびたり欠けたりするなんて話は聞いたことがない。
しかしこの話にはある欠点がある。
「ま・・・待ってください、サルスベリ様!
それじゃあ呪われた武器も伝説の武器ってことですか?」
「正確には伝説の武器の卵、だな。
使い手も経験を積んでいくうちにいろいろなスキルを身につけていくだろう?
武器も同じなんだ。
武器も使い手と同じように経験を積んで、さまざまなスキルを習得する。
呪いという形で発揮する武器などまだまだひよっこということさ」
呪われた武器がひよっこ。
その言葉に絶句するミミを無視してサルスベリは言葉を続ける。
「壊れることなく経験を重ねた武器は普通の武器にはない不思議な力を宿し、進化する。
それが付器神というものの正体さ」
「・・・!それじゃあ・・・サルスベリ様のおっしゃっていた『最強の武器』って・・・!」
「くくく・・・今頃ラグのヤツ、さぞかし驚いているだろうなぁ。
オリオールは数ある付器神の中でもヒトの形と意思を手に入れるまでに昇華した、言わば最高級品。
うっかり加減を忘れなければいいのだが・・・」
いつの間にか母親の笑顔からマッドサイエンティストのそれに戻ったサルスベリは我慢できないと言わんばかりに不気味に嗤う。
その様子にミミは質問に答えられなかった我が身の心配より、主であるオレのことを案じずにはいられなかった。
――――
そして話の舞台は再び戦場に戻る。
「お、おいおい・・・。何だよ、その腕と武器は・・・!?」
信じられないものを見るような目を向け、ローが思わずそんな言葉を口にする。
しかしその問いにオレは答えられない。
だってオレ自身、自分に何が起きたのかまるでわからないのだから。
ローの一撃を受け止めている右手は劇的な変化を遂げていた。
オリオールの胸をつかんでいたはずのその手には、銀色に輝く1丁の長大な銃が握られており。
そこから黒く幾何学的な模様が伸びるように右手を覆っている。
前後の状況から考えるに、おそらくこの銃がオリオールで、この模様は彼女の仕業なんだろう。
しかし武器に変身できるのはいいとしても、コイツにそれほどの力はなかったはずだ。
実際、最初に会ったときはサルスベリにモルモット扱いされてたし。
つーか、何でオレが装備したらこんなすごいことになるんだ?
わからない。オレの足りない頭ではどれだけ考えてもわからない。
だが。そんなおバカなオレの頭でもわかっていることが1つある。
それは自分を殺そうとする、物騒な女をブチのめすことができるってことだ!
思考モードから戦闘モードにスイッチを切りかえったオレは、力任せにローの拳を振り払い、その銃口をローに向けた。
「・・・っ!!」
それを見たローは反射的に銃口の射線上から身体をそらす。
そして次の瞬間、銃口が火を吹いた。
ドクンッ・・・!
「・・・ッ!?」
銃弾が発射される直前、力を吸われるような虚脱感が全身に走る。
だが不思議と嫌悪感はない。むしろ力を吸われるほどに妙な快感が走る。
この感覚は―――。
ゴオゥッ!
オレが感覚の正体を言葉にするより早く銃弾が発射された。
いやそれは銃弾の発射なんて生易しいものではなかった。
形容するならそれは小さく圧縮された一陣の風。
その行く手を阻むものは何物だろうと許さない、破壊と死でできた魔性の突風―――!