モンスターハーレム 第2章 287
「………くくくっ」
不意に。
ニオルドが背負っていた『モノ』が震える。
それは笑い声だ。
ニオルドは思わず『それ』を投げ捨て、即座に剣を構えた。ラープラも同じく手斧を握りしめる。
「あーっはっはっ。まさかロー様がいるとは思わなかったよ。いやー、勘が鈍るのって嫌だねー」
『それ』はべしょり、と壁にへばりつくと今までの少女の姿を崩していく。
「ロー、様…」
竜人姫の後ろで震えるトルナ。無理もない。エナジードレインとレベルダウンの呪いの最下層を一人でさまよっていたのだ。身体はかなり衰弱しているのだろう。
しかしそれはニオルドとラープラも同じはず。ローが注意深く見ると、肩が小さく震えてていた。
「君たちさ、よくこんな所まで来たよね。ごくろーさん。でもね、ここから先は通行止め。行っちゃ駄目なんだ」
ぐにぐにとまるでスライムのようになっていたそれは、やがて小さな少女の姿を模した。
「僕は『もう一人の自分―ドッペルゲンガー―』。僕の姿を見たモノは死ぬんだよ」
けらけらと彼女は笑う。だが、ローの行動は素早かった。
一瞬で少女の前に飛び出すと拳を繰り出す。
しかし剛腕たるそのパワーは少女の頭を砕くことなく、少女の頭はグニャリと歪ませただけだった。
軽く舌打ちしたローは少女を思いっきり蹴り飛ばす。小さな悲鳴と共に少女は派手な音をたてて壁にぶつかった。
「…スライム生物の一種かよ。めんどくせぇ」
「ロー様。奴は一体…?」
恐る恐るニオルドが尋ねる。彼女達からすればほとんど訳が解らないまま戦闘になっているのだ。だがそれ以上に自分自身の衰弱が酷いと言うことをよく理解していた。
ローが振り向いて見れば、ニオルドもラープラも。既に片膝をついていた。無論、トルナもである。
…魂食いの進行が予想以上に早い。本当は『彼女』に会って手早く退散するつもりだったが、それでは彼女達かの体力が持たないだろう。
仕方ない、とローは呟く。
「いいか、よく聞け。この回廊は存在するだけで生命力を削る生きた回廊だ。回避するためには強い存在にすがり、己自身を守ってもらうしかない」
トルナは既に意識が朦朧としていた。この侵食スピードは少々早すぎる。もしかするとソウルイーターに何かあったのかもしれない。
「このオレと、竜人姫ローと『契約』を交わせ。ぶっちゃけるとオレの僕になるんだ。それ以外は死ぬだけだ」