モンスターハーレム 第2章 158
ストレスのあまり、大声で叫んだそのとき。
突然背後から黒衣の女性に声をかけられ、オレは驚いてその場から飛び上がった。
ちょ、ちょっと待て!この女、いったいどこから出てきやがった!?
何気なく後ろから呼びかけられてびっくりしたが、オレの後ろって部屋もわき道もない一本道だったぞ!?
ついさっきオレが地図で確認しながら通ったんだから間違いないはず。
「・・・いや待て。この地図が古いだけで、もしかして抜け道とかの仕掛けが・・・?」
「クスクス・・・。あ、ご、ごめんなさい。
あなたがあまりにも必死に考えているものだから、つい」
突然何の脈絡もなく現れた女の出所について、本人を無視してうんうん考え出すオレ。
そんなオレの様子がおもしろかったのだろう、黒衣の女はクスクスと上品に笑いながら正解を教えてくれた。
それはオレの・・・いや、まともな頭を持つヤツなら絶対に考え付かない非常識な答え。
黒衣の女は無造作に壁に手をかざすと、そのまま腕を突き出した。
伸ばされたその腕は、壁に触れた瞬間、音もなく静かに壁に沈んでいく。
「・・・っ!?」
「私はこうやって壁から出てきたんです。ね?簡単でしょ?」
目の前の異常な光景に、オレは思わず絶句する。
そりゃ壁から出てきたなら背後にいても不思議じゃないが・・・。
誰がこんなバカげた回答をするできるヤツがいる?
オレは念のため女の手が沈み込んだ手と女の手を調べてみる。
どちらも本物だった。・・・この女は何なんだ?生き物じゃないのか?
少なくともオレの知識でこんなマネをできる生き物は知らない。
人間とも魔物ともつかない存在の登場に、オレは思わず身を硬くして身構えた。
するとその様子がよほど意外だったのか、謎の女は一瞬きょとんとした後、微苦笑を浮かべた。
そして黒衣の女は壁から手を引っこ抜くと、オレから少し離れたところでドレスのすそをつまんで華麗にお辞儀した。
「お初にお目にかかります、名も知らぬ魔物の雄。
私はこの最下層の主、ソウルイーターと申します」
「そうる・・・いーたー?」
先ほどまでのお姉さんじみた態度から一変した、まるで貴婦人のような振る舞い。
そのあまりの変貌ぶりに、オレはかろうじて彼女の名前を復唱するくらいしかできなかった。
「そう。私は滅びかけた伝説の魔物の末裔。その最後の1匹。
このような寂れた地にいったい何の御用かしら?『どこの誰か』さん?」
どこまでも優しい笑顔を浮かべて黒衣の女・・・ソウルイーターはそう尋ねた。
このときになって、ようやくオレは彼女に自分の名前を名乗っていないことに気がついた。