デメリアの門 14
「ご安心ください、お客様方。湧き上がる情動に耐え忍んでおられるのでしょうが、ここではそのようなこと、誰も気にしません」
「「っ!?」」
「あの方を前に、情欲に耐えることなど無意味なのですから・・・」
そんな中、メイドは茶を差し出しながらそのようなことを言ってきた。
図星をつかれた2人は驚き、反射的にメイドたちに顔を向ける。
するとそこにはさらなる衝撃の光景が待っていた。
何を思ったか、彼女たちは2人の前でスカートを持ち上げ、失禁したように濡れた下着をあらわにしたのだ。
「あの方に仕えてきた私たちですらこうなのです。むしろガマンなさると身体に毒でございますよ?」
「もしおつらいのであればいつでもおっしゃってください。
わたくしどもがすぐに楽にして差し上げますので」
「あーっ!?2人とも何を抜け駆けしているの!?お世話が必要なら私がやります!」
メイドたちの言葉に、ベルレスがブルックリンのことを忘れて抗議する。
むろんそんなこと、ブルックリンが許すはずもない。
彼は湧き上がる感情(怒り)のままに邪神の後頭部をひっぱたいた。
「きゃんっ!?」
「何をとんでもないこと言ってんだ、このバカ!
おまえが相手なんぞしたら、何度昇天させられちまうわ!
俺を何度も殺したこと、もう忘れたわけじゃないだろうな!?」
「こ、ここと向こうは時間の流れが違うから関係ありませんーっ。
それにちゃんと蘇生させたんだから大丈夫なんですーっ」
そこにすかさず入る2度目の全力ツッコミ。
「大丈夫なわけあるかっ!?おまえ、もうちょっとヒトの弱さ、もろさってものを考えてやれよっ!」
「ひーん、ごめんなさーいっ!」
まるでコントのようなやり取りに2人はもう言葉もない。
先ほどまでの疑問もきれいさっぱり吹っ飛んだ。
目の前の美女が神様であることは間違いない。
なのにブルックリンはそれに臆することなく、怒りのままに暴力までふるっている。
ありえない。目の前の少年はホントにブルックリンなのか?
2人は目を点にして目の前の現実を見ることしかできなかった。
そんな2人の様子に気が付いたのだろう。
ブルックリンはため息を1つつくと、2人を落ち着かせるべく知りうる限りのことを教えてくれた。
「自己紹介したとおり、コイツはベルレス。子宝をつかさどる古い邪神って言われてるけど・・・。
オレに言わせれば、ごらんのとおりの見た目が若いだけのはた迷惑なババアだ」
「ひ、ひどいわブルックリンちゃんっ!?
私たちには時間や存在の概念なんて意味がないなのに、ババアだなんてっ!」
ベルレスは顔を押さえて抗議するが、ブルックリンは完全無視。
正しい認識を与えるべく、言葉を続ける。
「邪神っつーと、フツー人間を滅ぼそうとしたりオモチャのよーにもてあそんだりするイメージがあるけど・・・実際は違う。
コイツら邪神ってーのは、人間が好きすぎてダメにしちまうから、他の神様や人間たちから嫌われ、隔離された連中なんだよ」
「・・・は?」
「人間が好きだから・・・人間から嫌われた?」
言葉の意味がわからず、思わずオウム返しに聞き返すアクサリとガルド。
それもそうだろう。神話や伝承では悪の限りを尽くしている存在が、実は真逆のものだったなんて。
いくら真実でも受け入れることなどできない。
むしろそんなことを口にした相手の頭を心配するレベルの話だ。
だが受け入れることはできずとも、それは間違いなく真実である。
少なくとも、今目の前でわざとらしく泣いている女性が人間のカテゴリーには収まらない、すさまじい力の持ち主であることは疑いようもない。
ブルックリンも幼馴染2人の心情がわかるのか、何か納得した様子でうなずいている。
「うん・・・うん。おまえらの気持ちはよーくわかるぜ。
こんなバカ女が神様だってだけでも信じられねーのに、コイツみてーな連中がごまんといるってんだからな。
そりゃ固まりもするわ・・・」
「ご、ごまんっ!?」
「ちょ、ちょっと待ってください!?人間を好きすぎて嫌われたって言うのはこの神様だけじゃなく・・・?」
「「邪神と呼ばれる存在すべてが!?」」
「・・・?あ、ああ・・・そーだけど・・・?何、驚いているんだおまえら?」