錬金術師カノンと五聖麗 51
「おいこら…お袋の葬式にも来ないでてめぇ…」
『そうか…カトリーヌは死んだか…最初はバレンシア魔術学院一の使い手、ウルスの娘だと言うから抱いたが…イイ女だったな…』
「ブッ殺すぞっ!」
『ふははっ…怒った顔は昔の私を見ているようだよ…しかし、今日は新月だ…血が騒がないか?』
「ああ…今にも出てこようとし…抑えるのも…キツいな…」
『私に会って…怒り…もう限界だろう…どれ、私が手助けしてやろう…』
異形の紅い目が、強く光る。
「ぐうぅぅ…貴様ぁ………ウオオォォォッ!!」
スパイムは獣のように叫ぶ。黒い髪は金色になり、目が燃えるが如く朱く染まる。
「アンタカ?オレヲダシタノハ…ハハッ…サシブリダ…チ…チガホシイ…」
『ますます私に似たな…血なら…そこにたくさん居るぞ?』
「アア…ダガソノマエニ…オマエハシンドケ…」
『なに?』
スパイムは剣を振上げると、一瞬で異形の胸元へ飛び込み首をはねた。
アセリアは右から、エリザは左から異形に迫り、まずその鋭い爪を持った腕を斬ろうとする。
しかし異形は両側からの攻撃を器用に躱し、時たま反撃に転じる。
「もぅ!なんなのよ、こいつ!」
「アセリアさん…短気を起さないで…」
「カノンに創ってもらったけど…当たんなきゃ意味ないじゃない!」
アセリアとエリザは距離を取り、異形の出方を窺う。
ザンッ!…
いきなり異形が頭から二つに割れた。
「「え?」」
スパイムだった。スパイムは返り血を浴びる間もなくフォスナー姉妹の相手する異形を、今度は背中から腹にかけて貫いた。
カノンは異形の大振りの爪を転がり躱すと、石ころを拾い爆発物へと錬成した。
「…これくらったら……死んじゃうか…」
カノンは高く跳ぶと、異形の頭に乗り、先程の石ころを異形の口へ放り込んだ。
ドォンッ!
異形は頭部を炸裂させると、前のめりに倒れた。
「ふぅ…悪いな…」
カノンは他はどうなったかと目を向けると、三体目の異形を倒したスパイムが目に入った。しかし髪は金色に逆立ち、異様な雰囲気を醸し出すスパイムを一瞬、カノンは誰か判断出来なかった。
「……ライカンスロープか?それもストレイタイプっぽいな。助太刀に行ったところであれ止めんの面倒臭いなぁ……ったく本当に困った人?だ……さて、なんかあっち危なそうだし助太刀行くかな」
そしてカノンは非常事態というのに全く緊張感の欠片の様子でゆったりとした足取りで助太刀に向かった。