比翼の鳥は運命の空へ 10
隣りの部屋で女の子が寝ている。それだけでも若い男子には刺激が強い。しかもその子が絶世と言っても過言じゃない程の美少女ならば、なおさら意識してしまうに決まっていた。
(胸も結構あったしな)
そんな事を考えたら余計に眠れなくなった。
舌打ちしながら身体を起こす。股間の布に引っ張られるような感覚。
「うげ……」
目を落とすと、ズボンがテントを張っていた。
思わず小部屋に通じる扉を見る。幸い、モニカが起きて来る様子は無かった。こんなところを見られてしまったら、相手が誰でもなにを言われるかわからない。
(頭冷やすか)
アレスは藁を床に敷き詰めて作った即席の寝床から起き上がり、勝手口から外に出た。
夏の終わりかけた外の空気は冷たく、少し湿っていた。
朝が早い農家の人達はもう眠っているのだろう、村は耳が痛くなりそうなほど静かだ。頭を冷やすにはうってつけだろう。
物置小屋の壁に寄り掛かって目を閉じ、静謐な夜気に身を委ねる。
「……だめだな」
しばらく経っても下半身の猛りが鎮まる気配は無かった。
(抜くしかねえか)
あとは欲望を充足させるしか手段は無い。
アレスは股間に手を伸ばし、ズボンの中からモノを取り出し―――――取り出しかけたところで手を引っ込めた。
離れた所で古い蝶番がキィと音を立てたのが聞こえたのだ。隣家の方角だ。
「リタ?」
隣家の勝手口から出て来たのはリタだった。
「どうしたんだよ? こんな時間に」
「どうしたって、その……アレスが出て来るのが見えたから」
リタの声は心なしか沈んでいるように聞こえた。
「モニカの様子はどう?」
「夕方に見に行ったらぐっすり寝てたよ。それきり起きてこねえ」
「そっか……」
不意に会話が途切れる。何となくお互いに話しかけ辛い。
アレスはなにか言わなければと思って言葉を探すが、深夜に幼馴染みの少女と二人きりになるという今の状況は手に余った。
仕方無く、無言のままリタを見つめた。
彼女は十年前初めて会った時よりずっと可愛らしくなっていた。柔和な目元にぷっくりとした厚い唇が愛らしい。日に焼けた顔にはそばかすが浮いていたが、それは彼女の愛らしさを損ねず、むしろ引き立てていた。
モニカの美しさを降り積もった新雪に喩えたとすれば、リタの愛らしさは野花のそれだった。
嫌われ者の自分に本当に善くしてくれた彼女はとても大切で、同時に愛しかった。
「なあリ……」
意を決して声を掛けようとした所で、彼女の視線が自分の股間に注がれているのに気付いた。
リタに会った事ですっかり忘れていたが、アレスのモノはまだ勃ったままだった。
「あ、いや、これはその」
「ねえ、アレス」
「は、はい! ななななんでしょう!?」
低い声で呼び掛けられ、思わず敬語で返事してしまう。
リタの足癖の悪さに怯えきっていたアレスは、彼女の声に甘えるような艶っぽい響きがある事に気付かなかった。