比翼の鳥は運命の空へ 6
「もはや逃げ場は無い。さあ、我々と一緒に来てもらおうか?」
にじり寄る敵たちから距離を取るように、モニカは少しずつ後ろに下がる。しかしその足はすぐに崖の淵で止まってしまった。
ちらりと振り返った崖下は雨で増水した河の激流。
モニカはごくりと唾を飲み込むと、赤毛の男を傲然と見据えて言った。
「拒否するわ。私には貴方達に付いていく理由なんて無い」
「ふ、強がりを。逃げ場は無いと言った筈だ。力ずくで連れて行く事だってできるんだぞ」
「いいえ、逃げ場ならある」
「なに?」
強がりではない断定的な物言いに、男の嘲笑は不審に変わる。
モニカは凄惨な笑みを浮かべた。
「私は貴方達に利用される気は無いし、貴方達の手に掛かるつもりも無い。そうなるくらいなら死んだほうがマシよ」
言うや否やモニカの身体が後ろに傾ぐ。
「な、やめ……!」
男が止める暇は無かった。
モニカは後ろに倒れ込むように重力に身を任せ、崖下の河に飛び込んだ。
落下による浮遊感の直後、水の重圧を感じるとともに平衡感覚が崩壊する。
激しい流れに容赦無く嬲られ、モニカの意識は闇に落ちて行った。
意識が戻った時、瞼の裏が妙に眩しかった。
顔に光が当たっているのだろう。モニカはいまいちハッキリとしない頭でそう考えた。
光から逃げるように身動ぎする。しかしそうした途端、全身に激痛が走った。
「っ!」
一気に目が覚め、ぱっちりと目を開ける。だがあまりにも光が眩しくて、一度は開けた目を細めた。
しばらく経って目が慣れると、モニカは自分が見知らぬ部屋のベッドに寝かされている事に気付いた。
寝かされているベッド以外には小さな洋服箪笥があるだけの質素な部屋だ。
ベッドの頭側にある窓は鎧戸が閉まっていて外の様子は見えないこともあり、部屋は全体的に殺風景である。
だが殺風景であっても決して冷たくはなかった。
上を見上げると天井は妙に高く開放的で、またそこにある天窓から柔らかな日差しが射し込んでいて殺風景な部屋に暖かみを与えていた。
ここの主は絶対に善人だろう、勝手な想像だがモニカにはそう確信できた。
そんな事を考えていると、部屋の扉が開いた。
入って来たのはモニカと同年代の少年だ。錆色の髪と青い目の、美少年とは言い難いが精悍な顔つきをしている。
「お、目が覚めたんだな!」
モニカが目を覚ましている事に気付くや、少年は嬉しそうに微笑んだ。
「……ここは?」
「俺んち。埃っぽくて悪いな。訳アリっぽかったから先生のとこには運べなかった」
「埃っぽくても構わないわよ。逆に助かったくらいだわ。実際訳アリだし、一目で天国じゃないって解ったもの」
我ながら可愛くない答え方だと思う。背けた視線の端で、少年が顔を引きつらせたのが見えた。
素直にありがとうも言えない自分にやや自己嫌悪。
「ところでせっかく目が覚めたんだ、なんか食うか?」