比翼の鳥は運命の空へ 5
シャープな輪郭にスラリとした鼻筋、長い雪色の睫毛、白い肌には一つの染みも無い。間違いなく美人と言える顔立ちだった。
(リタも美人だとは思ってたけど、上には上がいるもんだ)
一人で納得してうんうんと頷く。端から見れば完全にアホである。
(胸も結構あるし。呼吸に合わせて上下するのがすげえ色っぽ……)
そこまで考えてはたと気付く。
もう一度少女の様子をよく見ると、ほんの僅かだが呼吸に合わせて胸が上下していた。
まさかと思い、慌てて脈を取る。指先の感覚が、かすかな脈動を感じた。
生きているのと死んでいるのでは対応も変わって来る。
アレスは身を乗り出すと、大声で呼び掛けながら少女の顔を叩いた。
「おいっあんた! 大丈夫か!? しっかりしろ!」
「う……ん……」
少女は微かに呻いた。それと同時に身体が薄く光りだす。アレスにも見覚えがある聖霊光だった。
(この娘、聖霊使いだったのか!)
それなら雨で増水した河に流されたにも関わらず、少女がしぶとく生きているのも納得できた。
聖霊は聖霊使いの精神に反応する。その精神の根底にある生存本能が聖霊に働きかけ、少女の命を守ったのだ。
(それなら助かる!)
少女かなり衰弱しているようで、いくら叩いても目を覚ます気配が無い。普通ならばこの時点で助かる見込みはかなり薄いが、聖霊使いならば話は別だ。
聖霊使いならば聖霊に頼んで生命力を活性化させる事ができる。そうすれば医者に診せる時間も十分に稼げるはずだ。
「頼むぜ……!」
アレスは少女の胸の中心よりわずかに左、心臓に近い部位に手を当てると、聖霊に祈った。
すぐに様々な色の光の粒、聖霊達が集まってくる。
彼らは一度アレスの身体に宿ると、胸に当てた手を介して、少女の中に入って行く。
青白かった顔に血色が戻り、薄いピンク色になる。
「よし」
活力が戻ったのを確認すると、アレスは背中の弓と腰の剣を外した。身軽になった背に、少女を担ぐ。
「うお! 胸が背中に!」
そう緊張感に欠ける事を言いながら、再び岩を跳び移って対岸に戻った。
「頑張ってくれよ……!」
麓を目指して全速力で駆けだす。
アレスは背負った少女の無事を願いながら、ただひたすらに山道を走った。
少女は暗闇の中を逃げていた。
“敵”に捕捉されたのは二日前。それからは満足に休む事もできずにずっと逃げ続けている。
食べ物も飲み物もほとんど口にしていない。長時間山道を走り続けている足が痛くて堪らない。
今日になって降り出した冷たい雨が、わずかに残された体力も奪っていく。
「……っ! しまった!」
蓄積した疲労で判断力を欠いていたせいか、少女はいつの間にか逃げ場の無い崖に迷い混んでいた。その上、こんな時に限って敵が追いついて来る。
「追い詰めたぞ、モニカ・マックール」
男の声に、モニカと呼ばれた少女は振り返った。
闇の中から敵達が姿を現わす。声を掛けて来たのは先頭の赤毛の男だ。