比翼の鳥は運命の空へ 14
第六の感覚を通じて聖霊に働きかける。するとベッドに腰掛けたモニカの周囲に無数の光の粒が生まれた。召喚に応じた聖霊たちが姿を現したのだ。
聖霊たちはどんどん数を増やし、狭い寝室は十秒もしない内に光の粒で埋め尽された。
モニカは眉を顰めた。
(変に調子がいいわね……)
集まって来た聖霊はモニカが意図したよりも遥かに多かった。召喚速度も驚くほど速い。どちらもモニカが認識する自身の実力では到底届かないレベルであった。
(知らないうちになにかを掴んだみたいね)
聖霊は人の精神に惹かれる。したがって強い精神を持つ者ほど聖霊を強く、そして多く召喚・維持できるのだ。なにかが切っ掛けになって心境の変化が起こり、それによってより強く聖霊を惹き付けることができるようになってもおかしくない。
急に能力が上昇したのも心境になにかしらの変化があったためだろう、モニカはそう結論した。
(とは言え、手放しで喜べる事態でもないわね)
召喚した大量の聖霊の半分近くが維持し切れずに拡散していくのを感じて、顔をしかめる。
制御がまだまだ甘い。
増大した力は不安定で、最終的に引き出せる力は以前と同じ。いや、維持し切れずに霧散した聖霊に割いた精神力が無駄になる分、以前よりも損をしている事になるだろう。
(これは少しずつ調整していくしかないか。今はこの程度で十分……)
増大した力についてはひとまず置いておき、本来の目的を果たすべく聖霊に呼び掛ける。
部屋中を浮遊していた聖霊がそれに応え、モニカのもとに殺到した。
一体、また一体と聖霊たちはモニカの身体に取り込まれ、エネルギーに還元されていく。
身体機能の強化。強化された治癒力が、河を流されて負った傷の治りを速める。
一時間ほどそうしただろうか、寝室の扉が開いて誰かが入って来た。
「うぉっ!」
帰って来たアレスは寝室を漂う夥しい聖霊に驚き、すっ頓狂な声を上げた。それによってモニカの集中も途切れ、聖霊たちはたちまち霧散する。
「あ、わり。邪魔したな」
「え? え、ええ……」
アレスの反応を意外に思い、モニカは困惑した。
「驚かないのね?」
「なにが?」
「なにって、私が聖霊使いだって事によ」
聖霊使いと呼ばれる者たちの天を衝く強大な力は、普通の人々の畏怖の対象である。その才能を持って生まれる者が、全人口の二、三パーセント程度しかいないのだから尚更だ。
特にイオタのような小さな村では聖霊使いは一、二人しかいないので神聖視かもしくは蔑視される傾向が強い。
なので平然としているアレスの反応はモニカにはかなり意外だった。