比翼の鳥は運命の空へ 13
「ふ、ふん! ふてぶてしくて悪かったわね」
モニカは拗ねてそっぽを向いた。こんな振る舞いだから誤解されたのだとはわかっていたが、どうしても素直になれない。
「おいおい、怒るなよ」
「誰のせいよ」
「喧嘩はそこまで。ほら、モニカは服脱いで」
二人の様子をみかねたリタが割って入った。
「怒られてやんの」
「アレスは早く出て行きなさい! あなたがいたらモニカが脱げないじゃない」
「そうだぞアレスくん。女体に興味があるのは結構だが、相手は怪我人だ」
「そう言うお父さんもよ!」
「私は医者としての立場上、患者の様子を見る義務があるのだよ。故に直接素肌を見たとしてもそこには正当な理由が……」
「診察は終わったじゃない! いいから早く出て行きなさーい!!」
リタはマーガス医師の嘘くさいセリフを遮ると同時に股間を蹴り上げ、親子のやり取りをあたふたしながら見ていたアレスとともに寝室から蹴り出した。
「ごめんね、待たせちゃって。さあ、脱いで」
「ええ」
モニカはベッドの淵に腰掛けると、シャツのボタンを上からゆっくり外し出した。
手足は万全とは言いがたいが回復した、歩く事ももうできるだろう。
「俺出掛けて来るから、モニカの事頼むわ」
扉越しにアレスの声がそう告げた。
「ええ、わかったわ。お父さんはそこに転がしておいていいから」
「おー」
短い返事を残し、気配が遠ざかる。
その時、モニカが怪訝な表情で扉とリタを交互に見ていた事には誰も気付かなかった。
自宅を出たアレスは丘を下って、広場に出た。
「おい、見ろよ」
アレスの姿を見つけた村人たちは急にこそこそと話し出し、そうでなければ逃げるように家の中に入って行った。
誰もがアレスとは目を合わそうとせず、まるで彼がそこに居ないような態度をとった。
「ごめんください」
パン屋に入る。主人はアレスの顔を見て眉を顰め、目を逸らした。
(いつもの事とは言え、良い気分はしないな)
村の人々の冷たい態度に苛立ちを覚えたのは久しぶりだった。この十年ですっかり慣れっこになっていたが、やはり気分のいいものではない。
かといっていちいち怒るのも面倒だ。
アレスは昼食用のパンを買って村の中心から離れ、仕事場である山に入って行った。
目を閉じて呼吸を静かに。視覚をカットし、残る聴覚、触覚、味覚、嗅覚の働きも最低限まで落としていく。そうする事で知覚に入ってくる情報の量は最小限となり、心は波風の立たぬ水面のような穏やかさを得た。
続いて、第六の感覚を開く。モニカはその感覚を通して周囲の聖霊の存在を感じ取った。
ここまでで十分の一秒、普段と同じか僅かに速い程度。負傷が心配だったが、まったく問題無いようだった。
内心ホッとしながらモニカは次の手順に進む。
(お願い、来て……!)