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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 94

セリーヌは溜め息混じりに呟く。
「…やはり身を以て知るのが、卿にはちょうどいいらしい」
最後にそれだけ言って、セリーヌは浴槽から上がった。少し乱暴に上がったせいか、水音がやけに大きく響く。

「…しかしだ」

濡れた身のまま、セリーヌは振り返る。

「我は、一つ不安がある」

その表情は、アグネスを心配しているというよりもむしろ――


何かを期待しているかのような顔である。

「何が、心配なのでございましょう」

曰くありげなその口調を見抜いたアグネスは、笑みすら浮かべて問う。
セリーヌも、負けじとばかりに微笑んでみせた。

「古き言葉に、『ミイラを狙いし者がミイラと化す』というものがある。アグネスならば、言わずともわかるであろう?」

それだけ言い、セリーヌは背を向ける。アグネスはその背に向かって何か言おうとしたのだが、それより先に彼女は浴室を後にしてしまった。


「…私が、ジルドの虜になるなどと……笑えない冗談を言うようになったものだ、姫様は」


一人になったアグネスは、密かに嘆息するばかりだった。



――夜は更け。

トルピアは依然として、喧騒を保っている。その証拠に、締め切ったはずの窓から、昼とは異なる意味をもつ喧騒が微かに漏れ聞こえている。それは、トルピアの夜はまだ始まったばかりだ、と暗に示し、夜の町に繰り出すように誘う雰囲気を醸し出す。

――その雰囲気に顔をしかめながら、アグネスは静かに身を起こした。

(…そろそろ、頃合いか)

さっと立ち上がり、辺りの様子をうかがう。
まず目に入ったのは、テーブルの上に転がる数々の瓶だった。
――「ジルドを試す」と決心したアグネスが、まず最初にとった行動。それは、幾つもの酒瓶を注文する事だった。
酒は、適量ならば万の病に効力をなす「薬」となるが、過剰な量は万の病に勝るとも劣らぬ「毒」となる。そしてその毒は、時として「睡」という名の魔となって牙を向く。
アグネスは、そこに目をつけた。
酒を大量に飲ませてジルドを酔わせ、寝込みを襲う――至極単純な上に安易だが、それなりの結果が期待できる策を立てたのだ。
無論、アグネス自身が酒に弱くては、襲うも何もありはしない。しかし、彼女はリューンブルクでも指折りの、大酒飲みである。酒には滅法強い。

故に、ジルドの不意を突ける程に酔わせるのは可能――そう考えたのだ。

そして、その企みはまんまと成功する。
わざと度の強い物を選んだという事もあってか、ジルドは何杯かを飲み干した所で、「これ以上は無理だ」と呟きながら寝てしまったのだ。

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