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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 85

「…らしくない、か」
呟くジルドの口元に、僅かながら笑みが浮かぶ。
「…そのようだな」
そして一人納得する。しかしセリーヌは、勝手に納得するなとばかりに、腰に手を当てて仁王立ちの姿勢になる。
「気になる事があるのなら言えばいいだろう」
「そうです。今後に関わるような事ならば、私達も知るべきだ」
アグネスも賛同するかのように頷き、問い詰めるような目を見舞う。
「…いや、本当に愚にもつかない事なんだが…」
躊躇いがちに口を開いたジルドは、二人の視線に気圧されてしまい、やがて降参するかのように肩をすくめる。

「…この街独特の雰囲気は、何となく苦手だ。だから、少し酔ってしまった」

「……雰囲気で、か?」
アグネスの頭を不穏な考えがよぎり、彼女は眉をひそめる。
「一体どんな雰囲気だ」
「…良からぬ噂の類ではない。正直を言うと、個人的に嫌いな類のものだ」
ジルドはそれだけ言うと、黙り込んでしまう。
間を置いているのか。そう思ったセリーヌとアグネスは互いに顔を見合わせ、そしてジルドの方に目を向け、次の言葉を待つ。

「……」

しかしジルドは、開け放った窓の向こうに目をやったまま、いっこうに話し出す気配がない。

「…ジルド?」

場を満たし始めた何とも言えぬ静寂に耐えきれなくなり、セリーヌが声をかけると。

「…嫌な事を思い出す雰囲気なんだ」

唐突に立ち上がり、軽く息をつく。
言葉の意味を理解しかね、セリーヌとアグネスは再び顔を見合わせてしまう。それを見たジルドは、二人を安堵させるかのような笑みを微かに浮かべ。
「心配しなくていい。君達に危害が加わるようなものではない」
アグネスの懸念を取り払うかのような言葉を発した。
「至極個人的なものだ。だから、気にしないでくれ」
「…だが…」
それを聞いてなお、セリーヌは不安の色を隠せない。そして、アグネスも、また。
「…しかし…」
不安を隠そうともせず、しきりにセリーヌと視線を交わし合う。
再び沈黙が流れ、何とも気まずい雰囲気すら漂い始める。アグネスはいたたまれなくなり、何とか流れを変えようと言葉を絞り出そうとするが。


「……触れて欲しくない、ものなのか?」


出てきたのは、既にわかりきっているはずの問いかけのみ。
言ってしまった後で、愚問だったと恥じてしまう。

――しかし。

「…人に話すためには少し時間が必要な、少しだけ厄介なものだ」
止まってしまった流れを再び動かすには、充分だったらしい。ジルドは一瞬だけ寂しげな笑みを浮かべたが、それはすぐになりをひそめる。
「今は無理だが…いずれ話す。この話は、それまでとっておいてくれないか」

それはつまり、『今は話せない』という事。それを理解したからこそ、アグネスは。

「…心得た。ならば、それまで待つ」

明瞭な口調で、『待つ事』を誓う。

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