大陸魔戦記 71
「王族失格だな、私は」
姫はそう自嘲的に呟くと、闇空を縫う三日月を見上げた。
「そういえば、そうか。私はもともと皇位を継ぐべき立場にはなかった」
見上げたまま、そう呟く。
「女は家督を継ぐべからずといってな。上の兄が戦に散り、下の兄が行方をくらまし、二人の弟が病に倒れた後でやっと皇位継承の話が回ってきた」
そのまま、動かない。瞳を虚空にすえて、ただ口だけが饒舌に、動く。
「それまで我が剣を振るうことを嫌っていた父上がな、皇位継承者たるもの武も嗜まければと、我に剣指南役をつけた時の顔といったら。卿にも見せてやりたい程の物であった」
姫は、唇だけを歪ませて、笑う。
「そのくせに、肝心の戦いになった時には、我が陣頭に立つことをその最期までお許しにならなかった」
今や、リューン王家に残された唯一の皇位継承者は、溢れる涙をその眼からこぼすまいかとするかの如く、上天に輝く光の裂け目を睨み続けているのだ。
「…セリーヌ」
姫は、許せないのだ。
帝都で、その命に逆らってでも父のもとに駆け参じなかった事を。
リオーネで、その最期まで兵たちと共にあり続けられなかった事を。
今、この美しき景色の中で、まごう事なき生を謳歌している事を。
「セリーヌ」
ジルドは、今一度。
その名を、呼ぶ。
その正面に、歩み寄る。
「顔を、見るでない」
抗う姫の、そのか細い肩をそっと抱く。
「見るでない、と言うに」