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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 66

「全体!進めい」
「そんなへっぴり腰で敵が斬れるか!」
「槍中隊、前へ! 弓兵構え!」

 リオーネ市民軍兵舎。
 目と鼻の先にある帝都の陥落の報に、リオーネもオークたちの襲来に備えて演習を行っているのだろう。
指揮官たちの太い声が上がるたびに、兵たちの足音が頼もしく聞こえる。
 煌めく真新しい甲冑。
 日の光を弾く剣の輝き。
 新兵たちの若い声。
 されど。

 そこにリューンの兵の姿はなかった。


「……ふふ…我は、何をしているのであろうな」
訓練に勤しむ市民軍兵士を遠い目で見つめながら、セリーヌは自嘲気味に呟く。「…わかって、いた…わかっていた、つもりだった……」
ふと、その頬を煌めくものが伝う。それに気付いたジルドはさりげなく歩み寄り、リオーネ行政委員達の目もはばからず、その体に腕を回す。
当然、事情を知らない委員達は互いに顔を見合わせ、困惑するばかり。
「……も、もし…」
他の委員と同じく一連の行動の意味を計りかねたジェイコブが、遠慮がちに声をかけるが。
ジルドの胸に顔をうずめ、静かに泣き始めたセリーヌを庇うように、アグネスが立ちふさがる。彼女は何も言わず、咎めるように首を振った。
しばしの間、何も知らぬ市民軍兵士の若い声や足音ばかりが辺りに響く。その間、ジェイコブを始めとする行政委員達は居心地が悪そうに目を泳がせるか、互いの顔を見合わせるしかなく。
「……お聞きしたい事がある」
ややあって、セリーヌの細い体を抱きしめたまま、ジルドが口を開く。
その調子と刺すような視線は、慇懃な口調とは裏腹にかなりの苛立ちがこもっている。
ただ事では済まされないその様子に、行政委員達ははっと居住まいを正す。
「…ホテル・リオナ・トリオンフォルテに、巧妙に隠された地下室があるのは御存知か」
「……地下室、で御座いますか?」
問われた事の意味を計りかね、思わず聞き返す。それを聞いてジルドは、密かに息を漏らした。
「……ディリス・サンチェス、そしてアメリア・サンチェス」
そしてその言葉を、侮蔑を込めて言葉にする。


「……二人は『ブラッディ・ローズ』をもって、セリーヌ姫を手籠めにしようとした」


続いて放たれたその言葉は、委員達を戦慄させるのに充分過ぎた。
いくらサンチェスが爪弾きものといえども、リオーネの行政を担う権力者の一人。それが姫に危害を加えようものなら、リオーネの存続に関わる事態に発展する。
例えそれが一部の者による暴走だとしても、責任は免れない。行政とは、そういうものだ。
委員達の顔が一斉に青ざめ、強張っていく。それは、ジェイコブも同様だ。

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