PiPi's World 投稿小説

大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 62
 64
の最後へ

大陸魔戦記 64

 あるいは敬礼する者の反応も解せぬ。
 彼らはこちらを捕らえようとするどころか、晴天霹靂の様で駆け去る始末。しかも見たところ、
 しかもその動きは危機的な物、言うなれば戦場のそれではない。こちらの戦力を知った上での戦術的な退却や戦意喪失による逃走ではなかった。

 一国の姫をどうこうしようとするならば、万一の手違いもあってはならぬ筈。市全体が戒厳状態になっていても不思議ではない。それがこの始末である。

 あるいは夢でも見ているのではないかと、一同が顔を見合わせた時。

 街路にひしめく人の波を掻き分けるように、リオーネ市民軍の一隊がこちらに向かってやってくるのが見えた。
 装備の華麗さからみて儀仗兵の類であろう、それらの一隊に囲まれているのはこれもまた鮮やかな衣装に身を包んだ人々。一目見て高位の者と分かる彼らであったが、そのどの顔も驚愕そのものを表情に浮かべている。

「本当に、夢ではないのだろうな…」
 アグネスが眉を潜めた。

 それもそのはず、儀仗兵は権威を高めるべくその装備を華美に装い、式典、礼典における花形である一方で、実務に耐えられるような代物ではない。
 また、彼らを引き連れている者たちは、どう見ても武官ではない。そもそもこの程度の一隊を戦術上扱う上で、指揮官というものは一人、あるいは副官を入れたとしても3人で十分であるのに、どう見ても6人はいる。
 言わば、セリーヌ達を捕らえるというような任務において、これほど不向きな一団もなかった。

「油断は、するなよ」
 それでも、ジルドはこう二人に囁いた。
 アグネスもセリーヌも、頷いてさり気なく剣の柄に手をやる。

 前夜の一連の出来事に、リオーネ行政委員アイザックが一枚噛んでいる可能性は、十二分にあり得たからだ。
 サンチェスの策は、姫と兵たちを離さなければ成功しなかった。その最低条件を整え、策の舞台となったホテル・リオナ・トリオンフォルテに姫を案内したのはアイザックであった。
 あるいはアイザックが単独で動いたかといえば、それも考えにくい。
 自治都市リオーネを統べる行政機関である行政委員会は、リオーネ出身の大商人で占められ、外からの参入を拒んでいる。またその掟は厳しく、委員が委員会の意思から離れて独断で行動するとを許さず、その禁を破った者、並びにその一族郎党を極刑に処するという残酷とすらいえるものであった。
 もっとも、その仕組みが、歴代の帝国側の間者をして「リオーネの狸は付け入る隙を与えぬ」と言わしめ、結果リオーネの自治を保たせたのではあるが。
 その話はさておき。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す