大陸魔戦記 62
「…あれのどこが『完・全・無・欠♪』ですかっ」
「声音まで真似ないでくれよ。気持ち悪いから」
「なんですって!」
リオーネ市民軍宿舎、その傍らの市街の屋根の上。
どう贔屓目に見ても斥候に見えない二人組が、言い争っている。
「元はといえば貴方が出した声じゃありませんか」
「あたしはそんな声出しちゃいないねっ」
シャンティはいつも通り、で片付けてしまってもいいのだが、今回はその相棒もかなり気が立っているようだ。
いつもは素通りさせるはずのシャンティの罵詈雑言をそのまま受け止めているあたり、半端ではない。だからこそ、収集がつかなくなっているのだが。
「いーえ、貴方の声は、えー、あー、らびゅ〜♪、らびゅ〜♪、この身を捧げてあいらびゅ……コホン。ともかく、こんな感じのだみ声です」
「誰がだみ声…って違うわ。誰がそんな頭悪い歌を歌うかっ」
「な!?」
相棒の突っ込みに、なぜか汗を浮かべるシャンティ。それでも負けじと言い返す。
「あ、あら、貴方の頭が悪いのはいつものことでしょう?」
されど、そんな相棒の動揺など知らぬバラッティは猛るままに致命傷を食らわした。
「その歌を作ったアンタに言われたくないねっ」
「なんですってっ!? 貴方なんかに…」
そう言いかけてシャンティは押し黙った。微妙な感じの間の後、恐る恐る聞く。
「…この歌、頭悪い?」
「うん」
即答。
「やっぱり?」
「うん」
やはりこれにも即答。
「…どのくらい?」
「明日大魔王が降ってくるんじゃないかってレベル」
もうシャンティの顔は捨てられた子犬みたいになっている。
「…」
「…で?」
「…あ、貴方が歌ってたのよ!」
「あからさまに作詞作曲シャンティですが!」
当然過ぎる突っ込みを入れるバラッティ。
「貴方が、そうです、あの使い魔に向かって歌っていたのを見ました」
「嘘つけ」
「違います。悪魔に誓って違います。わたくしはこんな歌知りません。聞いてもいません」
「あからさまに矛盾してるだろが」
「…」