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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 60

「…アグネス、羨ましいのか?」
「なっ!」
思ってもみなかった言葉に、アグネスは明らかに狼狽する。
「ななな、何を申されますか姫!私は別に、羨ましくなど…」
しかしセリーヌは、名残惜しそうにジルドから離れると、必死で反論するアグネスの肩を叩く。
ジルドから見れば、慌てふためくアグネスを落ち着かせようとしているようにも見えなくはないのだが。
「…冗談だ。慌てぬでも良い」
アグネスをまっすぐ見つめる目は、極上の餌を見つけた獣のよう。その目に射抜かれたアグネスは、少しだけたじろいでしまう。
滅多にないが、セリーヌがこういう目をする時は必ず、何か良からぬ事を企んでいる。それを知っているアグネスは少し距離を置きながらも心を落ち着かせ、なにがあろうと動じない意志を固める。しかし。
「……アグネス。ジルドはこの先、共に行く者だ。だがいつまでも他人行儀に「ジルド殿」では、あまりに可哀想ではないか?」
「…?何を、おっしゃりたいのですか?」
突然出てきた「ジルド」の単語に、アグネスは首をひねってしまう。セリーヌは妖しい目でアグネスに近付くと、言葉を続ける。
「我が言いたいのはな…



アグネスも、ジルドを呼び捨てで呼ぶべきだと言うておるのだ」


「…何故に御座いますか?」
流石にアグネスは動じこそしなかったものの、セリーヌの意図が読めず、首を傾げてしまう。するとセリーヌは再度アグネスの肩に手を置くと、真剣味を帯びた顔になる。
「あまり考えたくはないが、兵達が…消えていた場合、我らは三人で流浪せねばならぬ。その時、他人行儀では何かと怪しまれるであろう?」
「は、はい…」
何となく言っている事が噛み合わない気もするが、アグネスは一応頷く。
「我らの身分は隠さねばならぬ。良からぬ事を考える輩がいるだろうからな。そしてアグネス、卿は女であり我ですら美しいと思う程の美貌を持っておる。節操のない輩から身を守るためには、既に相手がいる事を示さねばならん。故に、ジルドを呼び捨てで呼ぶ必要があるのだ」
確かに一理ある。何か噛み合っていないような気がしながらも、アグネスは頷いた。
「なら決まりだ。ああ、ついでに我も、『セリーヌ』と呼ぶのだぞ」
「は、はあ…」
明らかに毛色の違うセリーヌに面くらい、アグネスは気の抜けた返事しか返せない。そして困惑気味にジルドの方を見やると。
「…そろそろ、兵舎に向かおう」
革袋を背負いなおした彼は既に、元の調子に戻っていた。
「前を行ってくれ…セリーヌ、アグネス」
ただひとつを除いて。
(…男に呼び捨てにされるのは…変な気分だ)
アグネスは奇妙な感覚を覚えつつも、セリーヌと並ぶ事にした。



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