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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 58

ホテル・リオナ・トリオンフォルテのロビーにて、ジルドは首を傾げていた。
(何故だ……誰もいないというのは、流石に有り得んはず…)
そう。
革袋や食料を始めとする数々の品をホテル内で揃えるにあたり、厨房や従業員専用の仮眠室など、様々な場所を巡っていった三人だったが、奇妙な事に誰にも出くわさなかったのである。
(一部区画のみを巡って「いない」ならまだわかる……だが、全区画を巡ってなお「いない」…どういう事だ…)
ホテルを後にする前に再度、荷物の確認をしているセリーヌとアグネスをよそに、ジルドは気配を探る。しかし、それらしきものは毛ほどにも感じられず、かえって警戒を強めていく羽目になる。
(……余程の者が気配を殺しているのか…?)
ジルドは長い流浪の中で、生きる者の気配を感じ取る力を身につけていた。野宿も多い中、夜襲などに気をつけなければならなかったからだ。その能力はかなり洗練されており、現在では森の民―――エルフすらも見つけられる程にまで発達している。
しかし、なまじ発達し過ぎていると困る事もある。相手の気配がないと、意味のない不安に襲われてしまうのだ。
それは「気配を感じ取る事」に慣れてしまったが故のものであるが、今回ばかりは不安を抱くだけの理由がある。
「…ジルド殿」
そしてその不安は、他の二人も抱いていたようだ。いつの間にか目つきが鋭くなっていたジルドを、心配そうな目で見つめている。
それに気付いたジルドは、慌てて相好を崩す。
「…済まない、少し考え事をしていた」
すると二人は、今度は目を丸くし、驚いたような顔になる。それを訝しく思ったジルドが、何事かと問いかけようとした時。
「…やはり卿も、そのように笑うのだな」

そう言うセリーヌの表情は王妃としての威厳と―――

新たな不思議を見つけて無邪気に喜ぶ少女の笑顔が合わさった―――

なんとも神秘的なものをたたえていた。その笑顔に思わず、ジルドは魅入られてしまう。
「…ジルド殿」
そんなジルドに、アグネスは非難の目を向ける。それに気付いたジルドは、慌てて咳払いをしてその場を誤魔化す。しかしセリーヌは笑みを浮かべたまま、恥ずかしさのせいか顔を赤らめている彼に歩み寄る。
「……ジルド、頼みがある」
言いながらセリーヌは、ジルドの背に腕を回す。抱きつかれる格好となったジルドは、救いを求めるような目をアグネスに向けるが、彼女は我関せずといった表情で目を背けてしまう。
そんな事など意に介さず、セリーヌの瑞々しい唇がゆっくりと開かれ―――

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