PiPi's World 投稿小説

大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 42
 44
の最後へ

大陸魔戦記 44

そんなジルドの様子などお構いなしに、セリーヌは彼の背に手を回し、離すまいと強く抱き締める。
「ジルド…我の頼みを聞いてくれるか」
顔を上げ、潤んだ瞳で懇願するセリーヌ。その整った顔に、彼はしばし見とれてしまう。
「……今宵…我を、抱いて欲しい」
その言葉の意味を理解できず、しばしの間硬直してしまう。
静寂が、辺りを支配する。重なり合った互いの胸から、互いの鼓動が、痛い程はっきりと感じ取れる。それは時が経つにつれて高鳴っていき、次第に早鐘のように激しく脈打つ。
「…だ、抱く、のですか?私が?姫様を?」
ようやくしぼりだした言葉は、何故そうなるのかが全く理解できないジルドの問いかけ。その言葉に、眼前に迫ったセリーヌの瞳が更に潤む。
「…父と国を失い、獣人どもに犯されかけ、落ち延びた先で辱めを受けて……我の心は、今にも砕けそうなのだ」
回した腕に力がこもり、涙ぐんだ顔をジルドの胸に押しつける。
それは悲痛な叫び。それを理解したジルドは、優しくその髪を梳く。
一国を担う者の娘であろうとも。気丈に振る舞い、自ら剣を振るおうとも。元々の心はうら若き乙女のそれ。愛する者、そして故郷を失っただけでもその心には計り知れない重圧になるだろうに、逃げ延びる中で醜悪な欲望を突きつけられ、落ち延びた先で心許ない淫魔に犯されかけては、いつその心が壊れてしまうかわからない。
それを充分に理解したからこそ、ジルドは恐慌状態に陥っている心の内を毛ほどにもみせず、優しく、慰めるように囁く。
「すがりたいお気持ちはわかります。ですが、私はどこの者とも知れぬ流浪の剣士。姫様がすがるべき相手ではありません」
「嫌だ!卿は…二度も我を助けてくれた。だから…だからこそ、卿にすがりたいのだ」
恋は、人を盲目にする。初めにそう言いだしたのは誰であろうか。
今のセリーヌに、身分の事や、謎に包まれたジルドの素性など見えていない。今この瞬間、彼女はただジルドを欲している。
しかしジルドは、頭の中で冷静に物事を整理する。
人は恐怖に震えている中で異性に救い出されると、しばしば恐怖による胸の高鳴りをその異性に対するときめきと誤認する。今のセリーヌは、まさにその誤認をしているのかもしれないのだ。
そこにきて今さらのようにジルドは気付くのだが、セリーヌにはブラッディ・ローズが塗られたままである。媚薬による疼きがその誤認に拍車をかけ、「ジルドに恋する気持ち」を作り出しているだけなのかもしれないのだ。
しかし、再びこちらを見つめるセリーヌの潤んだ瞳には、明らかに意志の光が灯っている。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す