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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 5


―――しかし。

男は、物理法則を無視した速さで巨剣を振り上げ、勢い良くに叩きつけた。その衝撃は大地を揺るがせ、巻き起こった風が矢をなぎ払う。
迫るオーク達は揺らぐ大地と、それによって隆起した岩塊に道を阻まれ、風によってなぎ払われた無数の矢をその身に受ける事となる。
「……金品、領地、地位、奪うものは多々あれど」
オーク達の絶叫を聞きながら、男は呟く。
「愛する者に捧げようと守り続けてきた操まで奪うのは、節操が足りないんじゃないか?」
片腕で巨剣を持ち上げ、地獄絵図に向けて突きつける。

そして、向けた剣を無造作に払う。
「悪いが通してもらうぞ。俺は…姫君に用があるからな」

 それからの戦いは、余りにも一方的であった。 
 その勢いに、兵士らも加勢しようと試みたのだが、できない。
 男の放つ技は広い範囲に及ぶため、下手に動いては自らが危うかったのである。
 だが、千をも超える敵相手にたった一人で相対しているにも関わらず、男は余裕とも言える凄惨な笑みを浮かべながら、剣を振るう。
 その度に千切れ、乱れに乱れるオークの軍勢は、象に踏み潰される蟻の群れに似て。

「なんということか」
 アグネスは一武人として驚嘆したが、同時に、兵略を司る者としての思考がこの男の危険性に警鐘を鳴らしていた。
 男の手にする巨剣はトロル程の大きさを誇り、その奇抜な形状から何処の物とも知れない。若き頃武者修行として諸国を回ったアグネスとて、このような剣に見覚えなどなかった。
 そして、その力。
 人としてあるまじき程の、巨大なる力。
 古の書物や文献を紐解とけば、常人では考えられぬ程の力を手にした者はいる。だが、力は、それが大であれば大であるほど、それに見合う代償を支払うことによってしか手に入らぬのが定め。

 ある者は恋人の首を片手に。
 ある者は自らを狂気に貶め。
 ある者は死後の魂を悪魔に売り渡すことによって。

 力を追い求めれば、やがて己が人である事を止めねばならぬ。
 アグネスは、飄々と剣を振るう男の横顔に浮かぶ笑みを、注意深く眺めていた。

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