PiPi's World 投稿小説

大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 33
 35
の最後へ

大陸魔戦記 35

「しまった…」
 悲鳴とは、目の前の恐怖に戦意を失った者が放つもの。死が目前に迫っているか、圧倒的な敵に相対しているか、いずれにせよ、長くは続かぬ。

 悲鳴は、近侍たちのものではない。
 複数の何者かが、声色を真似て演じているもの。
 つまりは、ジルドらを誘き出すための、囮。
「姫が、危ない」
 そう呟くと、踵を返してセリーヌらの下に急ぎながら、近侍らの部屋に、戦いの跡がなかった事を考える。
 おそらく近侍らは、とうの昔に消されていたのだ。
 それも、抵抗する間も、声出す暇すら与えられずに。

 それ程の力量と、それだけの策略を巡らす、敵。

 あるいは、手遅れかもしれぬ。
 胸を這い上がるそんな不安を押し込むように、廊下を駆け抜ける。
 角を曲がり、ようやく、扉が見えた。
 息を荒げながら、半ば体当たりするかの如く、セリーヌの部屋を開けるジルドではあったが。
 焦る彼を無情にも出迎えたのは、倒れ、呻くアグネスのみであった。









「おお、我ら帝国の美しき花、セリーヌ殿下は、なんと美しくあらせられるか」
「ほんと、かのような美しきものがこの世にあるとは。女のわたくしも羨望してしまうほどですわ」

 湿った水の音が、薄暗き地下室にこだまする中。

 縛られしセリーヌを、毒々しいまでの仰々しさで迎えたるは、獣の如き目を持つ中肉中背の男と、ややほっそりとした体を持つ女。
「そなたらは、何者か。我をリューン帝國第一皇女と知っての狼藉かっ!」
 それらのあからさまに嘲る様を受け流し、皇女は手負いの獅子が如き凄まじき表情で睨む。
「質問は一つにしていただき物ですな」
 しかし、男はまるで取り合わない。普段の口調を隠し、あくまで紳士らしく振舞おうとする算段のようだ。もっとも、新しい玩具を得たとばかりに浮かれる野卑な笑みは、隠しようもない。
「臣は、サンチェス家を預かる、ディリズと申します。ここにいる我が妹はアメリア。どうぞお見知りおきを」
「…サンチェス、とな」
 その家名に、皇女の顔が変わる。
「ご存知であらせられますか」
「知らぬわけがなかろう」
 その瞳に軽蔑の色をこめて、セリーヌは吼える。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す