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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 34

「どうやら、熱はないようだが」
 されどそれは儚い白昼夢に似て、一瞬の間に霧散してしまう。
 セリーヌは額を離すと、心配そうにジルドの顔を覗きこむ。
「卿がいかな逞しき戦士とても、休まなければ体がもたぬぞ?」
 そのあどけない表情に、むしろジルドは何と答えるべきかと、考えあぐねる。

 と。

「ぎゃぁぁぁぁっ」
 廊下より悲鳴が響く。それも、複数。
「!」
 二人は顔を見合わせて、すぐさま各々の剣を取る。
 部屋の扉の方に向かったジルドに、セリーヌもその後に続こうとするが。
「ここでお待ちを」
 ジルドは、それを押しとどめる。
「だが!」
「敵の狙いは姫様一人」
「私はただ守られるだけかっ」
 ジルドの説得に、セリーヌは激すばかり。二人は押し問答になりかける。
「何事か」
 裸に拭き布一枚をかけたのみの姿のアグネスが、浴室から飛び出してくる。
 その有様に思わず目のやりように困ったようなジルドではあったが、今はそれどころではない。
「アグネス。姫様を頼む」
「分かった」
「我も…」
 そう言いかけるセリーヌを、お許しを、と呟きながらアグネスが後ろより抑える。
 その姿を見届けて、ジルドは廊下に飛び出した。そして、走る。
 悲鳴は、おそらくは近侍のもの。
 そう断じてジルドは彼らのの泊まる隣室の扉を開ける。
 されど。
 そこはもぬけの殻であった。
焦るジルドを嘲笑うかの如く、近侍の姿も、戦いの跡すらも、ない。
「…?」
 その時を見計らうかの如く、廊下の奥から悲鳴が漏れる。
「ちっ」
 廊下で、敵と戦っているのか――
 そう思い、声の鳴る方へ走る。
 また、遠くで、悲鳴が鳴る。
「何処だ!」
 時は、夜。
 点々と灯す蝋燭は、廊下を悉く照らすほどではなく。
 異国様式の建物の通路は、まるで迷路のよう。
 悲鳴は幾たびも上がるが、石造りの壁に反響して、その出所を掴ませない。

 上か、下か。右か、左か。

 走れば走るほど分からなくなる。
 朗々と響く悲鳴に、近侍たちを救わねばと、ジルドは汗を拭う。そして、ある事に思い当たる。

 悲鳴を、これほど長く上げ続けられるのか――

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