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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 23

 誰もが口を閉ざし、時たまに聞こえる誰かの傷を呻く声も、やがてはその気力すら失ったのか、次第に聞こえなくなる。鎧が擦れあう際に生じる音のみがその空に黙々と響く。
 されど。
 それは確かに敗軍の逃避行ではあったけれども。
 いまだ整然と行進し、一つの組織としての体裁を失ってはいなかった。


「…これから、一体どこへ向かうつもりだ?」
傷一つなく、敗軍としてはあまりに異様なジルドが、己の引く馬に乗る姫君を振り返る。
セリーヌの乗る馬は、元々は獣人の囲みを突破する際に遭遇した小頭が乗っていたもので、これ幸いとばかりにジルドが強奪した。そして、獣人に欲望を突きつけられたという事実から立ち直りきれてはいなかったセリーヌを乗せたのだ。
ちなみにセリーヌの脇にはアグネスが控えている。忠義心に厚い彼女としては、ジルドが姫の馬を引くという事に納得がいかなかったが、異種族に躾られた馬は何故かジルド以外には扱いきれなかった。例えそうでなくても彼女は普段から馬に好かれぬようで、仕方なくジルドに手綱を預けている。
「…リオーネに行こうと思っておる」
沈みゆく夕陽を見据え、セリーヌは静かに告げる。
その言葉に含まれていたリオーネという地名に、アグネスは眉をひそめる。
「リオーネ…確かにあそこは、我が国の領地内。しかし…」
「アグネス、そなたが憂える気持ちも分かる。しかしいずれにせよ、どこかに行かねば行き倒れてしまう」
そう言って、セリーヌは後に続く兵達を見回す。ただひたすら主にならい歩き続ける彼らの顔には、流石に疲労がにじんでいる。

「……我は兵達をみだりに失いたくはない。それに、リオーネの者は情に篤いと聞く。少なくとも、傷付いた兵達をむげには扱うまいて」
「左様に、御座いますか…」
穏やかに諭され、アグネスはただ頭(こうべ)を垂れる。
「…ジルドとやら、そなたもそうは思わぬか?」
自分の思いを理解したとみたセリーヌは、前で手綱を引く剣士にも賛同を求める。しかし彼は手綱を握ったまま、何も言わない。

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