大陸魔戦記 18
「そう、確かに、そうであったな。戦にあっては一時の油断も禁物であるというに…許せ」
僅かに目を伏せるも、セリーヌはきっと目を上げ、勇ましくもこう言い放つ。
「者ども! 今は戦う時ぞ。我に続け!」
その言葉に、リューンの将兵がおおう、と声を荒げる。各々の武器を握り締めて、迫り来るオークらに立ち向かう。
今は、戦う時。
幼き記憶ゆえに、正確には覚えていないその言葉。いや、それゆえにその心構えと、呼ぶべきであろうか。
教えてくれたのは、果たして誰であったろう。
姫がその問いを自らの胸の内に投げかける時間を、天は当分与えてくれそうにもなかった。
「陽動作戦は、成功したようですわね」
「そだね」
ジルドらのはるか左方、森に包まれた小高き丘。
弓を片手に木の影に潜むは、闇エルフのシャンティ。
闇の森の狩人の目は、十里を見通すというが、彼女とて例外ではない。
その瞳が、戦場に埋もれるジルドを注視した後、後ろの相棒を見やる。
「で、貴方の使い魔、忍び込ませられて?」
「…」
「ねぇったら!」
「ん? あ、うん。結構美味い」
明日の分の携帯食糧まで食べながら、こう適当に相槌を打たれては、シャンティの堪忍袋が耐えられるはずもなく。
「話題にかすりもしないではありませんか! いいですか? わたくしが、わざわざ、卓越なる弓の腕を敵に披露して見せたのは、あの”巨剣”の力量をはかると共に、敵の目を矢に引きつけて万が一にも潜入に気づかれないため、ってあれほど」
「あ、はいはい、例の『使い魔くん冒険シリーズ4 はじめてのスパイ侵入大作戦』ね。大丈夫大丈夫。ちゃんと敵軍さんにもぐりこんだみたい」
「いつそんな子供向け三流冒険小説みたいな名前になりましたか! しかも4って他にどんな…って」
バラッティに突っ込むシャンティであったが、ふとある事に気がついて蒼白になる。
「…はじめてなの?」