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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 17

先程の事を考えると、無理もない。男は内心苦笑しつつ、厳かに礼の形をとった。

「……八爪の担い手、ジルド・ネリアス。以後、お見知り置きを」

「ジルド…」
 セリーヌは、男の名を紡ぐ。
「ジルド・ネリアス、とな…」
 どこか懐かしい、その響き。
 セリーヌは僅かに、顔を顰めた。
 其の名がもたらす狂おしき身の焦がれ、懐かしくも悲しき思いは、どうしたものか、と。
 なれど。
「殿下を守れい!」
「ご無事でしたか! 姫様!」
 やっとのことでオークらの囲みを突破した兵らの己を慮る声に、姫は顔をあげる。
「我は、大事無い」
 彼らをして鎧を纏わせながら、すくと、立ち上がる。そうして、傍らに駆け寄らんとする忠臣の姿を認め――
「アグネス…無事であったか」
「はっ。いかなる天の巡り会わせか、こうして再び殿下とあいまみえる事ができました」
 そう言って傅くアグネスの姿に感極まったか、セリーヌはその胸の内をひた隠すかの如く気丈に言い放つ。
「何をいうか。そなたのことだ。天などに頼らず、己が剣で道を切り開いたのであろう?」
「誠ありがたき御言葉…ですが」
 姫の、天をも恐れぬ大胆なねぎらいに、むしろアグネスは面映そうに顔を赤く染める。
「さにあらず。私がここに居るは、全てこの剣士の功によるもの故」
「…ほう?」
 武勇誉れ高きアグネスにここまで言わしめる剣士とは、どれ程のものか。
 セリーヌはあらためてジルドの方を見やる。その体躯、その巨剣。確かに只者ではない。
 その剣士の力量を推し量ろうと、セリーヌは声をかけたが――
 あるいはそれは、先ほどからこの胸の奥底にわだかまる衝動を確かめるための、方便ではなかったか。
「ジルド殿と申したな。卿の働き、感謝する。いずれ褒賞を取らせよう。されど、その前に一つ――」
 僅かに躊躇ったあと、衝動に押し出されるようにその円らな唇から言葉が漏れ出す。
「一つ…尋ねたき、儀がある」
 瞳を揺らし、僅かながら懇願するような響きすら込めたその言葉。
 されどそれがこの勇猛なる姫にしては珍しいことであるという事を、剣士が知る由もなく。
「姫様の不審は誠にごもっとも。なれど今は…!」

 ヒュン――

 軽く風を切る音に、男は振り向きざまに手を伸ばし、それをつかむ。
 その手が握りしめるは、敵の放ちたる矢。
「今はさような時にあらず。問答はご容赦を」

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