大陸魔戦記 137
ガチャ、と浴室の扉が開く。その音にジルドは思わず身構えるが。
「ジルド、入るぞ」
響いた声に、一瞬だけ警戒を解いた。しかし直後、今度は別種の危険を察知する。
――現れた声の主、セリーヌは、裸だったのだ。
「は、入るって…その格好は何だっ」
泡をくったような態度でそっぽを向きながら、ジルドはセリーヌを咎める。
しかしセリーヌはどこ吹く風。さも当然であるかのような顔で、シャワーの蛇口をひねる。
――加えて。
「何って……湯浴みをするのですから、裸になるのは当然でしょう?」
第三の声の後、扉が閉まる。
声の主は、アグネス。その事に嫌な予感がして、ジルドが湯けむりの中で目をこらすと、扉の前には案の定、生まれたままの姿となった彼女がいる。
セリーヌとは違い、手拭いで一応前を隠してはいる。だが、ジルドにとってそんな事は関係ない。
「セ、セリーヌにアグネス、二人とも、一体何だっ」
――彼にとっては、「自分の湯浴みの最中に二人が入ってきた」というのが問題なのだ。
しかし、当の二人は何くわぬ顔。アグネスはセリーヌと入れ替わるようにしてシャワーを浴び始め、セリーヌはジルドが入っている浴槽へと近付いてくる。
そして、一糸纏わぬ姿で浴槽の脇に立ち、彼女はいけしゃあしゃあとのたまった。
「済まぬ。卿を先に入れさせたは良いが、少し寒くてな。どうせだから、共に入ろうかと思ったのだ」
その内容に当然、ジルドは顔をひきつらせる。
そして所謂『混浴』を阻止すべく、論を尽くすのだが――
「い、いや、この浴槽には三人も入れないぞ」
「誰が一度に浸かると言うた?一人ずつ順繰りに体や髪を洗い、残りの二人は湯船に浸かれば良いだろう」
「そ、そもそも二人ですら、収まるかどうかわからんぞ」
「我とアグネスは平気だ。前にも共に浸かった。それに、ジルドが入っている時は、もう一人が卿の上に乗っていれば良いであろう?」
――ある事柄は理にかない、ある事柄は無茶であり、しかし結局は、ジルドの論など歯が立たず、封じられていく。
挙げ句の果てには、次の論を捻りだそうとする僅かな隙を突かれ、「では寒いから失礼するぞ」と侵入される始末。こうなってしまっては、最早ジルドは拒否できない。
「…ほら、入ったであろう」
「……そうだな…」
勝ち誇った表情でのしかかるセリーヌを、受け入れるしかなかった。
――しかし、事態はそれだけで済む程甘くはない。
何せ二人の状態は、ジルドの上にセリーヌが、椅子にでも腰掛けるようにして座っているというもの。そして彼女が腰を下ろしている位置はちょうど、ジルドの愚息よりも若干ずれた所。