大陸魔戦記 134
――が。
「……だが、今日は答えを急がない。一晩、当事者を交えてでもゆっくりと裁定を決めてもらいたい」
不意にジルドは、ライフォン達に背を向ける。
剣を持ったまま。
「今回は、しばらくここに留まる。宿泊場所はレグスに聞いてほしい。……では、良き返事を」
そして、些か急いているかのように早口で短絡的に言うと、彼はセリーヌとアグネスの二人を交互に見た。
――どうやら、「帰るぞ」という事らしい。
「……わ、わかった」
「……行きましょう」
その態度に何か違和感を感じたセリーヌとアグネスではあったが、ここはとりあえず頷いておく事にした。
対するジルドは、二人が頷いたのを確かめてから、もう一度ライフォンの方を見やる。
「……」
「……」
――束の間、交わり合う視線。だがそれは、ジルドが先に外す。
そして彼は、セリーヌとアグネスに続くようにして、その場を後にした。
バタン、と扉が閉まる。次いで、その向こうから微かにガシャン、という音も響く。
――それから、数拍。
「………か、帰った…」
レグスを始め、その場にいたほとんどの者達が、安堵の息を漏らしながらその場に座り込んだ。
「……ふぅ」
ライフォンも、座り込みはしなかったものの、安堵の息をついて近くの手すりに寄りかかった。だが、彼はすぐに手すりから離れ、腰を抜かしたままのレグスに視線を投げかける。
「……レグスよ」
「……んだよ」
呼びかけにこめられた咎めるような響きに、レグスはすぐさま威嚇した。しかし、ライフォンは息子の陳腐な威嚇になど構わず、彼に歩み寄る。
「……言ったはずだ」
そして、レグスの肩を捕らえ、彼の睨みと真っ向から向き合う。
「…あの者と関わってはならんと。なのに何故手を出した」
そして、咎めの言葉。それに対し、レグスは明らかに激昂する。
「るせぇっ!俺が何しようと勝手だろ!」
その反論には、「自由にさせろ」といった感情が混ざっている。
――だが。
「…命が、惜しくないのか…っ!」
ライフォンはレグスの肩を掴み、今にも怒鳴ってしまいそうな形相で、しかし大きさを抑えた声で、レグスに言った。
「…私は長年、様々な者を相手にし、その者達の目を見てきた。それによって培われてきた勘と、知識が、私に警告するのだ。『ジルド・ネリアスは危険だ』、と」
だんだんと、息が乱れてくる。