大陸魔戦記 14
「じゃぁ、何? このまま黙って指くわえて…」
その言葉に、バラッティは至極残念そうな抗議をしてみせるが、シャンティはむしろ嬉しそうに笑ってこう付け足した。
「ですから、帰ってきてないのですよ。貴方の使い魔くんは」
「は? え、何よ? 使い魔くん関係ないっしょ」
ブチッ
「嗚呼! なんで貴方は、ここまで言ってさし上げているのに、分からないのですか!?」
「何ぶちきれてんだよ…って、あ」
「もういいですわっ。貴方の使い魔は帰ってきてない。そういう事にしとくの。分かったっ!?」
「いや、ちょっと」
「何よ!?」
「みんな、どっか行っちゃったんですけど…」
「え」
気づけば、先ほどまでそこにいたはずの、”巨剣”も決死隊も、何処かに退避してしまったのか、どこにも見えない。
「…貴方の、せいですからね」
「いや、違うだろ」
恨めしげな顔をして睨んだシャンティに、思わずバラッティは突っ込んだのであった…。
「…なんという事だ」
若き姫君は舌打ちし、剣の柄に手をかける。
セリーヌをはじめとするリューンブルクの生き残りは、有事に備えて秘密裏に設けた抜け道にいた。巧妙に偽装し、幾つもの術式を張り巡らせ、知らぬ者にはそこが道である事すらわからぬようにした、秘密の逃走路―――のはずだ。
しかし、セリーヌ達の目の前には、オークやゴブリンの大軍が立ちふさがっている。
「網を張られた、という事か…」
いかな秘密裏に設けたとはいえ、地下に道を掘り進めているわけではない。所詮は平野部の森、帝都そのものを手早く囲んでしまえば抜け道も塞がれてしまう。
「…姫様、ここは我等に」
王宮付の守護剣士達が、セリーヌを守るように前に出る。他の兵士達も各々の武器を構え、いつでも撃ちかかれるような構えを取る。