大陸魔戦記 130
「…ま、何にせよだ」
呆気にとられた様子の二人に目をやってから、ジルドは首を振る。それから、誰にも当たらないように器用に剣を振り回し、肩に担いだ。
「二人とも、入浴中だった所を悪いが、着替えてくれ」
「…こやつらを引き渡すためにか?」
セリーヌの問いに、ジルドは素直に頷く。
「…君らを置いてはいけない」
――それから、しばらくの後。
「…なあ、ジルド?」
剣を肩に担いで歩くジルドに向かって、アグネスが視線を投げかける。
「…あの不届き者達は、何故浮いているのだ?」
言いながら、次は後ろに目をやる。
その視線の先には、部屋にいた時の状態のままふわふわと浮かぶレグス達がいる。彼らは何か叫んでいるのか、口をぱくぱくと動かしながら、地につかない足をばたばたと動かしていた。
「…束縛だ。相手の音と移動を封じている」
だがジルドはその様子などどこ吹く風で、アグネスの問いかけに答える。
「…これは、魔法と言って良いのか?」
すると今度はセリーヌが、ジルドの顔をのぞき込むようにして問いかけてきた。
対してジルドは、やはり前を向いたまま言葉を紡ぐ。
「…そう思ってくれて構わない」
「…機嫌でも悪いのか?」
その受け答えがどこか投げやりな節を含んでいるような気がして、セリーヌは目を細めた。するとジルドは、苦虫を噛み潰したかのような顔に変わった。
「…忠告したにもかかわらず、一度ならず二度までも襲ってきた連中に、腹が立ってる。それと、二人が湯浴みをしている間に片づけられず、不安にさせてしまった自分が情けない」
そこまで言ってから、小さなため息が続く。
「あの時はアグネスがいたから大事に至らなかったが、そもそも俺が取り漏らした事に問題がある…」
彼は更に、首を振る。
明らかに自分を責めているらしいジルドの呟きを聞いていたセリーヌは、やれやれ、とわざとらしいため息をつく。
「それで不機嫌、というわけか」
「まあ、そうなる」
「…我は別に気にしてなどおらん」
幾分か呆れ気味の言葉。ジルドは思わずセリーヌに目を向ける。
「…湯にはまたゆっくり入れればよい」
そこには、ジト目で彼に視線を送るセリーヌがいた。
彼女は腕を組み、不満そうに口を尖らせている。
「それに、早かれ遅かれ我ら二人には気づかれる。その時、卿は事後報告だけで済ますつもりだったのか?」
強い口調で言い寄る。その態度が予想外だったらしく、ジルドは何とも言えない表情で目を逸らしてしまう。
「いや…決して、そういうわけでは…」
「ならばどういうつもりだったのだ?はっきりと言うてみるがいい」
セリーヌは歩みを速め、目を逸らしたジルドの視線にわざわざ合わせてから、更に言い募る。