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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 124

「ああやって服を自分で選ぶのは楽しかった。あんな事など、した事すらなかったからな。それに、食べたいものだけを頼めるのも新鮮だったぞ。何せ、リューンでは好むと好まざるにかかわらず、とにかく嫌という程料理が運ばれてきた上に、残すのは許されなかったから…」

とにかく饒舌である。
ともすれば、少々不用心かもしれない。何せ、比較の対象として、自身の王宮生活を挙げてしまっているのだから。
――しかしそれだけ、セリーヌは今日一日が新鮮に見え、かつ楽しく思えたのであろう。

「そうか…喜んでもらえて何よりだ」

それをわかっているからこそ、ジルドは敢えてその口を律しようとはしない。ただ彼女の話したいように話させ、それに耳を傾けている。

「……」

しかし、一方のアグネスは複雑な気持ちである。
用心を考えるならば、できるだけ早くセリーヌを律しなければいけない。しかし、目を輝かせ、あそこまで嬉しそうに口を動かすセリーヌに水を差すような真似をするのは、正直気がひける。

しかし、それだけではない。
名状し難い、何かもやもやとしたもの――それが、アグネスの相反する二つの意見を抱き込んで、それぞれを余計に膨らませている。それが結果として、普段ならすっぱりと決めてしまう感情の摩擦を、決めきれない葛藤に変えてしまっているのだ。

「……」

普段ならばない葛藤に、思わず顔をしかめてしまう。

「…どうした?」

するとそれに気づいたのか、ジルドがアグネスに顔をむける。
「……なんでもない」

言いながらさりげなく、アグネスはそっぽを向く。

――適当に向けた視線の先には、ベランダへと通じる窓があり、その先には漆黒が広がっていた。

「…時間がこんなにも早く過ぎた事に、少し戸惑っただけだ」

その闇から思いついた、あまり自分らしくもない稚拙な理由を述べ、しかめてしまった顔の事を誤魔化そうとする。
当然、ジルドがそれに気づかないはずはないのだが。

「…確かに、戸惑うかもしれんな。こうやって…気がつくと夜になっている、という事にな」

彼はアグネスと同じように窓に目をやり、さりげなく呟いた。
それだけではない。

「…だがこうやって、楽しい事をしているうちに、矢のように時が過ぎていくというのは、案外幸せな事だぞ?」

背負っていた剣を部屋の隅に立てかけながら、アグネスに向けて笑みを投げかけたのだ。
まるで、アグネスのもやもやした心の内を見透かしたかのように。

「…ジルド…」

――心のもやもやが、晴れた気がした。

詰まるところ、自分は妬いていたのだ。
自分を置いて仲睦まじく話す、ジルドとセリーヌに。

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