大陸魔戦記 123
「まさか。本人の意志に関係なくものを食わせるつもりはない」
それはそうだ。それに、二人は既に別の料理を食べている。食べさせるつもりだったら、注文自体していないはずだ。
だが、ならば何故ジルドは、先の言葉を言ったのか。アグネスの疑問は消えない。
「ならば…何故?」
重ねて問いかける。するとジルドは何を思ったのか、席を立って二人の後ろに回り込んだ。そして二人の顔の間に、自らの顔を割り込ませる。彼は左右を交互に見た後で、口を開いた。
「…夜も、ちゃんと君達を愛してやらなきゃいけないからな」
元の色に戻りつつあった二人の顔が、先程よりも赤く染まる。
「ジッ、ジルド!こここ、こんな所でそんな、事をっ!」
「ふっ、不謹慎だぞっ!」
セリーヌとアグネスは口を揃えて、あっという間に席に戻ったジルドを叱責する。だが彼は、大して悪びれた様子もなく、二人の言葉が切れるタイミングで口を開いた。
「それは謝る。…だが、君達も望んでいるだろう?」
「「うっ…」」
しっかり的を射た言葉に、二人は思わずたじろいだ。その様子を見ながら、ジルドは更に言葉を続ける。
「二人とも愛すると決めた以上、生半可な手抜きで不満を残させたくはない。だからいつでも何度でも、手を抜かず全力で君達を愛する。そう決めた」
そして料理を口にした。
その動作を終了ととった二人は、互いに顔を見合わせる。
「……」
「……」
そして顔を赤らめたまま、大分冷めてしまった自分達の料理を食べ始めた。
――その一部始終を、さりげなく全て聞いていた者がいた。
その人は話が終わったのを確かめると、既に空になっていた食器はそのままにして立ち上がる。それから、気づかれないようにジルドを一瞥した。
ジルドに、変わった様子は特にない。
それを確信したその人は、真っ直ぐ会計に向かった。
「…さて、荷物はここでいいだろう」
ホテルに帰ってきたジルドは部屋の中を見回し、両手にぶら下げた荷物を降ろした。
「王宮とは違う平穏な一日は、満足できたかな?」
振り返り、後に続くように部屋に入ってきた二人に向かって問いかける。
不意の問いかけに、二人は無意識に顔を見合わせる。しかし、困惑している様子ではなさそうだ。
「…ああ、楽しかった。…ジルドのおかげで、な」
ややあって、アグネスが頷く。
「…気持ちは、窮屈な王宮に比べて格段に快適に思えたな」
そして、セリーヌも。