大陸魔戦記 116
「…だいぶしぼれたみたいだな」
――しばらくして、依然として服を吟味し続ける二人を見て、ジルドは呟いた。
最初は二人とも、あちこちに移動しては、気に入った服をとにかく沢山選んでいた。しかしジルドの吟味があったせいか、今はごく限られた区画を中心に服を選んでいる。
そろそろだな――そう思い始めた時、ちょうど二人がやってきた。
「ジルド、これならどうだ?」
「これは似合うと思うのだが…どうだろうか?」
例のごとく、ジルドに問いかける二人。
――だがジルドは。
「……」
何も言わず、考え込んでいる。その様子に二人は顔を見合わせ、「何か機嫌を損ねるような事をしただろうか」という不安を抱き始めてしまった。
「…ジルド…」
「えっと…」
「……」
三人の間に、少しだけ気まずい雰囲気が流れ始める。
――と。
「……あ。済まん、少し考えこんでしまった」
ジルドが口を開いた。
「結構しぼれてきたから、決めづらくなってな」
その口振りと態度には、あまり変わった様子はない。二人は互いに安堵しつつも、彼の紛らわしさに口を尖らせた。
「いらぬ心配をかけさせるでないっ」
「全くです。紛らわしいっ」
「済まん…」
むくれる二人に対し、ジルドは若干押され気味である。それでも彼はちゃんと、二人が持ってきた服に目を向けた。
そろそろ、試着を始めるのが妥当かな――そう思いながら。
――それから、しばらくして。
三人は服飾店での買い物を済ませ、トルピアの中心部に位置する噴水広場にいた。
「…やはり、こういう服もなかなか良いではないか」
「はい。特に、ジルドが選んでくれた物ですから」
口々に言う二人の服装は、すっかりトルピアの雰囲気に見合うものである。
――しかし、ジルドはと言うと。
やはり旅装束と、背中に巨大な剣。それだけでも不似合いだというのに、彼の両手に握られているいくつもの袋が、更に滑稽さまで醸し出している。
セリーヌとアグネスの二人が普通の格好をしているという事もあってか、やはりジルドの姿はどこか場違いな気がする。
――しかし、当の本人はというと。
「気に入ってくれて助かる。あそこより質の高い場所を、俺は知らなかったからな」
完全にそんな事など頭の中にはないようで、普段通りに振る舞っている。
――幾つもの死線をくぐり抜けてきた彼にとって他人の目というのは、案外些細な事なのかもしれない。
「ふふっ、そんな事を言うていると、我が儘を言うぞ?」