大陸魔戦記 114
「…ほう」
煮え切らないシャンティの言葉に、男はそれでも表情が変わらない。
「もっ、申し訳ありませんっ!」
その態度に更なる恐怖を抱いたのか、シャンティの隣に控えたバラッティが、地に額をぎりぎりまで寄せて平伏した。恐怖のあまりガチガチと震える口を無理やり動かし、必死に謝罪を口にした。
――しかし。
「…よい。わかりきっていた事だ」
男は一言で、二人の震えを鎮めた。そして立ち上がると真紅の外套を翻し、傍らに控えた者の体を抱き寄せる。
「ふぁ…っ」
その者の、下腹部の更に下をまさぐりながら、男は目だけを闇エルフ達に向けた。
「奴は幾多の修羅場をくぐり抜けてきた手練らしい。お前達は知らんだろうが、以前にも何人もの物見が彼奴にまかれている……つまり一筋縄ではいかん相手だ」
「は、はぁ…」
震えこそ止まりはしたものの、彼に対する畏怖のあまり、ましな受け答えが思いつかない。シャンティは思わず、生返事をしてしまった。
しかし男は、それを別に無礼だとは思わなかったのか、そのまま言葉を続ける。
「…今までは追跡を諦めていたが……何せ今回は、リューンの姫君に同行している。さすがに、滅ぼした国が蘇っては面倒だ」
すぅっ、と男の目が細められる。
「…今回の事は不問に処す。なんとしても見つけ出せ」
「…はっ、ははっ!」
「しょ、承知しましたっ」
慌てて更に深々と頭を下げる闇エルフ達。対して男は、軽くこつっ、と床を鳴らした。
すると闇エルフ達は、口を揃え「失礼しました」と言い、さっと姿を消した。
「…さて」
不意に、下腹部の下をまさぐる手の動きが激しくなる。
「ひぁ…あぁん…」
「…今日の相手はそなただ。我を楽しませてくれよ」
「は、あふぅ…はぃい…」
恍惚とした表情で頷くその者に、高貴ながらもどこか下卑た笑みを見舞う男。
――しかし、その心は別の所にあった。
(ジルド・ネリアス…)
彼の心に、黒い炎が宿る。
同時にそれは、心の内をじわじわと侵食していく。
(今度こそは、必ず貴様を……)
「…どうじゃ、似合うか?」
右を向けば、翡翠の瞳を持つ金髪の美女が、清楚なワンピースを身に当てて問いかけてくる。
「…私に…似合うだろうか…?」
左を向けば、紺碧の瞳を持つくすんだ赤髪の麗人が、淡い色合いのブラウスを片手に首を傾げている。
様々な服を物色する二人に挟まれる格好となっても、挟まれた男――ジルドは平気な顔で、二人――無論、セリーヌとアグネス――と二人が持つ服を見比べた。