大陸魔戦記 113
――その問いかけに対し。
「…昨日のまぐわいで、わかった」
アグネスはやはり頬を赤らめたまま、ちらりとジルドを見やる。
「…お前は…とても優しい」
そう言って、ちらちらと向けていた視線を、真っ直ぐジルドに向けた。彼女にしては珍しく、恥ずかしそうに体を揺り動かしながら、言葉を続ける。
「…お前のモノを一心に舐める私を、お前は『愛くるしい』と言ってくれた。それに、『君となら一時の感情に流されてもいいかもしれん』とも言った」
――言った。確かに言った。
それは方便でもなんでもなく、本当にそう思ったから言った。別に他意などない。ないのだが――などというジルドの内心など露知らず、アグネスは続ける。
「…前の男は、そういう言葉以前に引いていたから……それが嬉しくて…ときめいてしまった」
――なるほど。
前の男と別れたのは、体の相性と嗜好が原因か。
直感したジルドは、手を伸ばす。その手はアグネスの手を掴むと、ぐっと引っ張った。
「な…っ」
「そうか。済まないな、野暮な事を聞いて」
「い、いや…別に…」
片腕で抱きしめると、アグネスは耳まで真っ赤に染まった。
やはり、愛くるしい――そう思いながら、ジルドはアグネスから視線を移す。
その先は、自身に寄り添うセリーヌだ。
「…セリーヌも、本当に後悔はしないな?」
アグネスと同じ事を問いかける。それに対し、セリーヌは。
「…言葉は不要ぞ」
何を今更、といいたげに口を尖らせてから、ジルドに抱きついた。
「…そうか」
彼女の背に空いた腕を回し、そっと抱き返す。同時にアグネスを抱きしめる腕にも力を込めた。
「なら、精一杯君達を愛そう」
「「ジルド…」」
翡翠と紺碧の、二対の目が、ジルドの穏やかな笑みを仰ぎ見る。ジルドは二人を包むように抱きしめると、そっと耳元に口を寄せた。
「…本心から言おう……欲張りだが、君達二人を愛している」
「……巨剣の所在がわからなくなった、だと?」
贅を尽くした、おどろおどろしい雰囲気漂う玉座の上で頬杖をついた男が、表情を微動だにさせず言った。
その視線の先にいるのは、ガクガクブルブルと震えながらも頭(こうべ)を垂れる二人のダークエルフ――シャンティとバラッティ。
「は、はいっ。巨剣がリオーネで馬車を調達した所までは監視できていたのですが…」
額に玉の汗を流しながら、シャンティは報告する。
「…気がつくと、行方知れずとなっておりました…」