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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 12

それはアグネスも同様だ。
幾ら巧妙に隠した避難路であっても、網を張られては意味を成さない。そして、捕らえられたら最後―――

「貴様!それはいつの話だ!」
鬼の形相で、アグネスは男の胸ぐらを掴み上げる。流石に男も怯むが、あえて冷静さを保ったまま告げる。
「言っただろう、”先程”と」
「あまり経っていないと!そういう事だな!」
その冷静さにアグネスはかえって益々いきり立ってしまう。
男は閉口しながらも、それを少しも見せずにアグネスをなだめる。
「…姫君が大事なら、行け。幸いにも今、オークは来ない」
「ならぬ!現に貴様という得体の知れな」「知れなくて結構!」
人が変わったかのように、突如として怒鳴りたてる。その迫力に、アグネスも冷静さを取り戻す。
言った後で男は、しまった、と舌打ちするがもう遅い。
「…これだけは言う。姫君に死なれては困る。俺は姫君に用があるんだ」
そこで一旦言葉を切り、ついでに胸ぐらを掴んだままのアグネスの手を、ゆっくりと解かせる。
「…君は姫君を助けに行きたい。そして俺は姫君に死なれては困る。図らずも双方の目指す所は同じだ。そこで、だ……今は共に戦わないか?」
「…なん、だと?」
呆然とするアグネス。それに構わず、男は早口に続ける。
「急げ、時間が惜しい。さあ、どうする?」
 焦る、即答を求めるような男の気勢に、アグネスもはっと我に返る。
 すぐに冷徹な計算を張り巡らせて――
「貴様の言うことにも一理ある。されど」
 こう、言い放つ。
「避難路を教えず、貴様をここでオーク共と相打ちにさせた方が、あるいは姫様の為になるやもしれぬ」
「ここに至って、まだ言うか…」
 胸に迫る焦りが外に染み出るかの如く、苦渋に満ちた男の声が漏れる。
「当然だろう? 貴様の力、オーク風情より遥かに脅威」
「…脅威、とな」
 その言葉に、愚かな、と言わんばかりの怒気が男の瞳に宿る。
「それでも、いや」
 アグネスはしかし怯まず、むしろ瞳に鋭利な刃物の如く真摯な眼差しを込めて男を睨み返す。
「それゆえに尋ねよう。戦士よ。姫様への害意なきこと、神にかけて誓えるか?」
「…神には、誓えぬな」
 アグネスは瞬時、言葉を失った。
 拒否を意味するが如きその台詞にではなく。
 そう言い放った際に浮かべた男の笑みが、それまでの飄々としたものではなく、それを笑みと呼ぶのも憚れる程に、悲しげなものであったがために。
「されば、悪魔にかけて誓おう」





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