大陸魔戦記 105
「…まさか、前戯だけでここまで派手にイクとは、思わなかった…」
ジルドの上から転げ落ち、傍らに横たわったアグネスが、息も絶え絶えに呟く。その表情は、絶頂の余韻を噛みしめているかのような、満たされたものをたたえている。
「…激しく、と言われたからな……ただ、辛くはなかったか?」
射精の余韻から立ち直ったジルドは上体を起こし、寝台の傍らにあった手拭いを取り、アグネスに纏わりついた自身の精液を拭う。その顔は、アグネスに無理を強いたかもしれないという後悔が、浮かんでいる。
「……本当に、わからん奴だ」
その表情を見て、アグネスは呆れたように息をつく。
しかしその顔は、むしろ笑みさえ浮かべており、いい意味でのものだという事を、示している。
「こっちがあられもない醜態をさらす程に責めるくせに、後になって『大丈夫か』などと…煮え切らない男め」
情交の前にも浴びせた、皮肉。しかし、その言葉にジルドを揶揄するような響きはない。
「…煮え切らない男、か……これでは、君にもセリーヌにも、愛想を尽かされてしまうな」
皮肉らしくない皮肉に対しジルドは、どうやら自覚があるらしく、自嘲の笑みを浮かべる。
「…どうも俺は、女性というものの扱いが下手なようだ。どちらか、という事が、できないらしく、最後は常に煮え切らない。普段は、何て事なく決められるのだが…」
精液を拭き取った手拭いを、邪魔にならない所に置く。
「…今はそんな事を言っても仕方ないか」
「そうに決まっておる。まだアグネスは本番すらこなしてはいないであろう」
――不意に、第三の声。
ジルドは思わず、第三の声の主を探す。
――それは、簡単に見つかった。
「しかしまぁ…他人が傍で寝ている時に、よくそこまで喘ぐ事ができるな……我は驚いたぞ」
――寝台に横たわったまま、目を開けてこちらを見る、セリーヌがいた。その表情は、親の痛い所を見つけた子供のような、嬉々としたものをたたえていた。
「…セ、セリーヌ…」
驚きのあまりか、主君を名で呼ぶアグネス。
「すっ、すまないっ、セリーヌ」
一方のジルドは青ざめた顔で、慌ててセリーヌに土下座する。
「どうしたって言い訳なんかできるような立場じゃないが…君の心を裏切るような真似をして、本当に済まないっ」
深々を頭を下げるジルド。
おそらく、彼には今のセリーヌが、怒りをたたえた修羅のように見えるのだろう。そのせいか、とにかく必死で謝る。
「……」
しかし、セリーヌは。
「…ぷっ」
――笑いだした。
心底おかしい様子で。
その笑いは、冷や汗すら流していたジルドと、とりあえず事の成り行きを見守っていたアグネスを、混乱させてしまった。