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…まあ、明日の『恥ずかしさ』は、今は考えないで、明日考えることにしておこう。
何より、目の前のみちよに失礼だ。
僕は、頭を振って明日の心配を追い払った。
「いただきます」
僕は、手を合わせた後、その弁当に箸をつけた。
昨日とは違うものでも、やはり、これも、おいしかった。
「おいしいよ。ありがとう」
「喜んでもらえて、うれしいよ」
しばらく、二人で弁当を食べた。
ちょっと、沈黙が続いた。僕は、何か話さないと、と思った。
「ねえ、みちよ、語学って、結構英語に特化しているの?」
僕は、大学生時代の第二外国語は、論文には出てくるかもしれないが、その周辺の国では確かに使われているが、あまり広がりがない言語を選んでいたのだ。
「うーん、近隣の言語も多少やるよ」
そして、みちよは、顔つきが割と我が国に近い近隣の2カ国に行った時に、そこの言葉でバーッと話しかけられた時のために、自分はこの国の国民だ、と言う言葉を教えてくれた。
頭では覚えられない。
僕はスマホにカタカナでそれをメモした。
…別に外国語を覚えるのが目的じゃない。そもそも行く予定もないし。
やっぱり、温泉スパがちょっと気になってしまう。
「ところで、温泉スパ、みちよはよく行くの?」
「よく、ではないけど、たまに行くかな…そういちろうくんは?」
みちよは、ごく普通にそう言った。
「僕は…行ったことないんだ…なんか『出会い系』のようなイメージあって」
とりあえず、恥ずかしい、ことは奥にしまっておいた。
「うん…そういう使い方もあるけど、2人で行けば、別に誘われるわけではないよ」
みちよは水筒のコーヒーを飲んだ。
「僕、そもそも、小さい頃親と、以外は、他の人と風呂に入ったこと、シェアに来るまで…なかったんだ」
みちよの箸が止まった。
「えっ、修学旅行とかは?」
「部屋の風呂に一人で入った」
「ふう〜ん」
みちよは、目を丸くして驚いていた。
「みちよは、修学旅行では?混浴だったの?」
答えは大体わかっていたが、会話を続ける方が沈黙よりはよかった。
「うん。高校ではね。あと、あの年は、泊まる部屋も男女別か男女混合か選べた」
「どっちにしたの?」
「男女混合の方にしたよ。割と仲いいグループで泊まれてよかったよ…っていうか、男女別を選んだのは、けっこうホモ系が多かった。だから、うちの高校では、一つ下の学年からは、男子だけの部屋は作らないようにした、って聞いた…そういちろうくん、修学旅行は男子だけで泊まったの?そっち方面は大丈夫だったの?」
「うん。男子だけで泊まった…あのころはまだ、その方面は、そこまで多くなかった」
僕は、その高2時代の友人の顔を何人か思い出していた。彼らはどうしているのだろう?
もしかしたら、あれからその方面に“目覚めた”奴もいるかもしれない…
理系クラスだから男子が圧倒的だった。今の後輩たちは、どんな風に過ごしているのだろうか…
僕たちは弁当を食べ終わっていた。いつの間にか、みちよは僕の隣の、ごく近くに来ていた。
きのうの「明日、あの公園の林でやろうよ」の流れの中での、今だ。
あまりに流されているのは、情けない、と、思う。
ここで、少しは、流されない方向に行くなら…僕から行くしかない。
僕は、みちよの両肩を持って、そして、唇を合わせた。