パートナーシェア 1
確かに、あれから「景気」は良くなったかもしれない。
しかし、その恩恵を受けたのはごく一部のような気はする。
物価は上がった。特に、都市部の不動産は上がった。
それとともに「雇用の流動化」とかで、いわゆる「正社員」は減った。
つまり、非正規労働者は増え、格差は広がった。
お金がない、ということは、そりゃあ、いろいろみじめにもなる。
そして、多くの庶民の若者にとって、結婚はもちろん、異性と付き合うことすら、難しくなった。
そして、都市部の不動産の高騰により、そこでの一人暮らしも贅沢なものとなった。
郊外なら一人暮らしできるが、非正規を合わせても、職はかなり少なくなる。
そういう背景の中、ルームシェア、シェアハウスの延長上で、男女で住んでその中でパートナーもシェアしよう、という「パートナーシェアハウス」というような形態が広がり始めた。
早い話、共有の「彼女/彼氏」 または セフレ付きの住居、っていうことだ。
いまや、単に「シェア」と言ったら、この形態を指すようになった。
これは少子化対策ともなるため、行政ももマスコミもそれを積極的に推進した…
僕は、そんな中、やっぱり正社員にはなれなかったけど、都内にバイトを見つけた。
「ここは、あまり細かい規則は無い」
その、不動産屋に紹介されたシェアの、僕よりちょっと年上に見え、軽く脱色したさらさらヘアの男の先輩はそのように説明した。
「他にあるような、セックスは寝室以外では不可、とか、順番を守らなければらならない、とか、セックスは一対一でなければならない、とか、そういうことはなく。住人同士でセックスしたければ、そう言って、ハウスのどこでもやればいいし、裸になりたければそれもどこでもOK.裸になってほしければ頼めばいい。風呂も、トイレも、鍵がかかっていなければ、いくらでも一緒に入っていい。もちろん、暴力的なのはだめだし、妊娠して安定していない子とやろうとするのは、いけないけど、基本的に、軽く声をかけてOKをとったら、いいんだ」
そして僕は、シェアの中を見せてもらった。
ここは定員6人で、今は男性はその先輩1人、女性は3人いるということ。
この住宅事情でこの家賃だから、個室はなく、個人が占有できるスペースはパーテーション付きのデスクのみ。
そしてベッドは2段ベッドが2つ、つまり4つしかない。
「ここに住むなら、君は寝るときは、誰か女子と寝るか、またはリビング--ここのこと--かデスクの部屋で寝てもらうことになる」
誰か女子と寝る…シェアに来たのだから当然のことなのだが、僕はドキドキし始めた。
「え、えぇ…勝手に一緒に寝ていいのですか?」
先輩は不思議そうに答えた。
「だから、さっき言った通り、基本的に、軽く声をかけてOKをとったら、いい…もしかして、君、童貞?」
痛いところを突かれた。そう。僕は、童貞。
「はい、そうなんです…え、えぇ、中学高校でも、僕のところでは…今のように積極的に…その…セックスを推進していなかったですし…大学も、工学部で、周りは男ばかりで…そりゃあ周りにはインカレとかでシェアとかしていた奴もいましたが……あの、やっぱり、童貞だと…まずいのですか?」