続く城島はバントで送り、ワンアウト二塁。
ここで４番代田。その代田は、二球目の直樹の甘いストレートを捕らえる。当たりは鋭かったが、運良くショート藤井の正面でツーアウト。
バッターボックスには５番山田が入る。
その山田は直樹の三球目のカーブを強振。打球は大飛球となり、レフト野田はバックする。打球は伸びたが、フェンス手前で失速し、野田のグラブに収まった。

柊は直樹の球を受けながら不思議な感覚に陥っていた。
初めてバッテリーを組んだ急造コンビで、しかも普段から受けた事が無かった。
最高速で120kmちょっと。だが、その球は130km以上に見え、コントロールの悪さに苦しんではいるが、バッターは明らかに詰まっているのだ。
そして、明らかに妙な球の回転……普通ストレートはバックスピンがかかり、ミット目掛けて放物線を描く。しかし直樹のは、カーブと似たような錐揉み状の横回転してるように見えるのだ。
『ジャイロ』……そのストレートはそう呼ばれている。
誰でも投げれる訳でなく、腕の振りから手首の使い方まで、あらゆる意味で普通のストレートとは違う。
直樹の場合は怪我の影響での不慣れな右手での投球が、偶然にも生み出した、ある種の野球の神様からのプレゼントと言えた。
努力と生来の器用さで右投げを会得した直樹。地肩の力が付き、球速と制球が増せば、相川に匹敵する投手にすらなりえると土居監督は思った。

しかし、まだ得点は７‐９と２点ビハインド。
この回は８番相馬から。
しかし、相馬は２球目を打ち上げショートフライ。
９番相川は14球粘って四球。
１番滝川は空振り三振。
２番藤井は冷静に球を見極め四球。
そして３番直樹を迎える。