俺は蒼太の打球が抜けることを信じて走りだした。
前方にいる三塁ベースコーチの選手が腕を回している。
足は限界に近いが、行くしかない。
三塁ベースを蹴ってホームへ。しかし、ペースは上がらない。
そんな中、ライトからの好返球がキャッチャーのグラブにおさまる。
「（ダメだ…）」
結局俺は本塁手前で憤死してしまった。
「アウト！」
もう僕の体はボロボロだった。
かなり体が参っていたが、そこはキャプテンとしての意地で九回の守りについた。
エースの中田は既に球数が１００球を越えており、球の走りが悪くなっていた。
それでも先頭打者は打ち取った。しかし、次の打者に左中間を破られ、サヨナラのランナーがセカンドに出てしまった。
更に内野安打、四球で満塁となり、クリーンナップへ。大ピンチだ。
そんな中、三番打者は狙いすぎたのか、打ち損ねて浅い内野フライを打ち上げて凡退した。
そして１打サヨナラの場面で四番打者、瀬川卓人をむかえた。
相手のベンチではもう全員立っている。ベンチにいる皆が打ってくれることを、信じているにちがいなかった。しかし由美との約束を守りたかった。
味方のベンチを見てみると今まで微動だにもしなかった監督がサインを出していた。

『後退守備』後ろに下がって何としてでも乗り切ると言うことだ。
バッターの瀬川は足があまり速くない事を思い出して内野と外野の全員が下がった。

由美を見て見ると完全に目を塞いでいた。俺だって諦めたかったが必ず由美を県大会に連れていきたかった。