うちのマネージャー 97
段々と声を大きくしながら必死の形相で訴える共恵を無視し、聡介はケータイを操作する。
「…おねがいっ!!やめて!」
「………えーと、健哉のはー」
聞く耳を持たない聡介の様子に、共恵は実験室で体を拘束されてから初めて、大粒の涙を零した。
「…お願いだからっ!それだけはっ…それだけはやめてええ!」
そんなものが健哉の目に入ったら、考えただけで怖くて仕方ない。
こんな風に他の男に触られて、浅ましく感じてしまった自分を健哉が喜ぶ筈など無いのだ。
嫌われて、しまう―
その恐怖に比べれば、先程聡介に傷を付けられたことなど大したことではなかった。
いや、全てのことが大したことではないように思えた。そう悟った共恵は何かが吹っ切れたように大声をあげていた。
「……誰かっ!誰か助けて!!」
「…ちょっ……小原っ!?」
「お願いっ!誰かきてーーーっっ!!」
「…やめっ…」
案の定、聡介はケータイの操作をやめ慌てだした。これであの画像は送られない。
「…こんなとこ…誰も来ないって……無駄なことすんなよ…」
「………っ………誰かっ!ここ!第3実験室にいるのっ!たす―――…っんぅ!?」
無駄なこと、と言いながらも叫ぶのをやめない共恵に焦った聡介は、彼女の口を塞ごうと再び猿ぐつわを噛ませようとする。しかし共恵も出せる限りの力を出し抵抗し、諦めなかった。
「…っやだ!離してっ!」
「じゃあおとなしくしろよっ」
「いやっ!!」
ここで諦めてしまえば、もう健哉には会えない。また手足を拘束され、写真を撮られ、健哉に送られる。それで全てが終わってしまう。
そんなのは絶対にいやだっ……
「…………健哉クンっっ!!」
今まで心の中でさんざん呼んでいた愛しい人の名前を、共恵は初めて言葉にしていた。言葉にすれば、今自分が彼以上に求めている物は何もないのだと再認識させられ、また涙があふれ出てきた。
彼さえ居てくれれば何もいらない…―
「…健哉クンっ!健哉くんっ!!健哉くんっっ!!」
「……あいつが来るはず――」
ドンッ!
「来るはず無い」と言おうとした聡介の言葉は、突然響いた轟音にかき消された。
「「……………」」
一瞬なにが起きているのかわからず口を噤んだ二人の耳に、もう一度、今度はさらに強いガンッ!という音が響いた。
ガンッ!!
さらにもう一度鳴ると、聡介がはっと息をのんだのが分かった。
「…ま……まさか……」
ガン!!!
「いや…でも鍵は俺が持って……」
ガンッ!!!