うちのマネージャー 45
共恵は日が落ちてからは、一人でこの公園を通りすぎたことがなかった。なぜならこの公園は夜になると昼間とは全く違った顔を見せるからだ。
「あんっ!あんっ!」
「……イくっイっちゃうぅ」
「気持ちイイっ!」
(…やだ…ほんとにいっぱいいるんだ…)
あちこちから間断無く聞こえてきた声に、居たたまれない気持ちになる。それと同時に、昼間盗み聞いてしまった情事が頭の中でフラッシュバックし、思わず健哉の顔を窺いみてしまった。
「…あ」
すると一体いつから見ていたのだろう。健哉の熱い、獣と化した瞳に躯を射抜かれた。
「…健哉…く…」
意識せず声が掠れてしまった。
餌なのだ。
突然共恵は理解した。健哉のこの瞳に射抜かれる度、躯が震えてしまうのは、自分が健哉という肉食獣に食べられる運命である、小動物でしかないからだ。けれど同時に共恵は知っている。自分は食べられるだけのただの餌にはなり得ないことを。
「んっふ……」
前触れもなく与えられた、健哉からの噛みつくようなキスをうっとりと甘受する。
「…っはぁ」
唇が離され、共恵が必死に息を整えている間に、健哉は彼女の躯を手近な木に押しつけ、躯をまさぐり始めた。
「…ああっ」
抵抗するでもなく、むしろ歓喜の声を上げてしまう自分がいることを、共恵は自覚する。
自分はこうして食べてもらうのを心待ちにしているのだ。いついかなる時も。健哉専用の餌なのだから。
好きにしてと言わんばかりに、共恵は両手を自ら背後の木に絡ませた。
シュルッ
(あっ…)
それに気づいたのか、健哉はネクタイをほどき、あっという間に木に結びつけてしまった。
「あ…あ…」
「なに…?惚けた顔シちゃって」
つつーっと頬から首筋にかけて指でなぞっていく健哉。そのもどかしさに身を捩ると、半袖から剥き出しの腕が木肌にチクチクと刺激される。それさえも興奮を煽るスパイスにしかならない。
「んっ…」
早く触って欲しい。健哉の手でトロトロにして欲しい。
それなのに健哉は一旦共恵から身を離してしまう。
わかっている。こんな時の健哉は言葉を待っているのだ。共恵が恥ずかしい言葉でおねだりするのを、待ちかねている。